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かぞくのカタチ

動物という家族

小林明子

小林明子(ライター)
物心ついた時から家には動物がいて、ペットというより「家族」だった。
一緒に暮らすのは大変だけど、意外な発見の連続で離れられなくなる。

かぞくのカタチ

動物という家族

第21回 さようなら、そして、こんにちは。その3

 アンドレが我が家に来て1週間がたった。威嚇はされなくなったものの、少しでも近づこうものならぴゅーんと逃げて、空き箱の中や本棚の奥の隙間に戻ってしまう、ビビりぶりは変わらず。それでも、私が一心不乱にパソコンに向かっている時はセーフと理解したのか、デスク横にあるソファーベッドに敷いた毛布の上でまどろむようになってきた。
 実はそんな時こそ、お腹モフモフしたくなるのだが、ここで急いては事を仕損じる。アンドレの安心度が増すよう、あえて見て見ぬふりを続けていた時、事件は起きた。

※ここから先は、お食事中、またはお食事前の方には不向きな表現が少し出てくることをお断りしておきます。

 まどろみから覚めて、すくっと立ち上がったアンドレのしっぽの辺から、何かがパラパラとこぼれ落ちた。え? 何が? と思わず近づくと、アンドレは素早く逃げた。ソファーの座面に何かを残して……。目を凝らすと、そのこぼれ落ちたものの一部はもぞもぞと動いていた。

「ひえー」、悲鳴に近い声を上げながら、私はそれらをふき取り、アンドレを追う。アンドレは逃げる。しっぽの付け根から“例の動くもの”をパラパラ落としながら……。そしてトイレへ。排泄した〇〇を観察すると、同じものが蠢いていた。寄生虫だ! ネット検索すると、その特徴から、瓜実条虫(うりざねじょうちゅう)が予測された。

 シャンコもお世話になっていた、かかりつけの獣医さんに即、電話。
 私「シャンコが亡くなり、動物愛護センターから男の子を1週間ほど前にもらい受けたのですが、どうも寄生虫が居たみたいで……」。
 先生「じゃあ診察しましょう」といつものように冷静に。
 私「そ、それがですね。だっこはおろか、さわることもできない子なんです。保護されたセンターの職員さんでもキャリーケースに入れるのに手こずっておられたぐらいで……。どうしましょう」おろおろと話す。
 電話のむこうで先方は「なんで、この人の猫はいつも問題ありなんだろう」と思っておられたに違いないが、そんなことはおくびにも出さず、一瞬間をおいてから、
 先生「寄生虫だとわかったとしてですね、治療には2種類あります。ひとつは口から薬を飲ませる方法。これはさわれないのであればまず無理だと考えます。もう一つは首ねっこに液体の薬を塗る方法です」と冷静沈着に説明してくださった。
 私「塗る方にします。塗る方。どっちにしろ、猫は連れていけないので、薬だけもらいに行っても良いですか?」
 先生「わかりました。念のため、排泄した〇○を持ってきてください」
 私「はい!今すぐ行きます」。

 病院に到着。紙に包んで二重の袋に入れた〇〇を看護師さんに渡し、待合室の椅子に座る。今もアンドレは、しっぽの付け根、ああ、もう正直に表現しよう。そう、肛門からパラパラとアレを落とし続けているのだろうかと思うと気が気でない。一体、どこでアレを……? そしてアレは人にも伝染るのか……? もやもや考えるうち、名前を呼ばれた。

 先生「いましたね。間違いなく瓜実条虫ですね。瓜実条虫はサナダ虫のことです。その幼虫が潜んでいるノミを口にしたんでしょうね。それにしてもよく見つけましたね」
 私「いや、歩くたびに肛門からパラパラと落ちてましたから」
 先生「へー」
 いつも冷静な先生の驚いた表情を記憶に刻む余裕はすでになく、それよりもサナダ虫にノミ! それが我が家にいるということか……と軽いめまいを感じながら、
 私「そ、それでどうしたら良いんですか?」
 先生「首元、前足も後ろ足も届かない辺りに、この薬を垂らしてください」
 私「垂らすんですか。それならスキをついて何とか……」
 先生「いやいや、首元の毛をかき分けて地肌を露出させて、そこに塗り込んでほしいんです。皮膚から吸収する薬なので」
 私「毛をかき分け……」
 先生「そう、かき分けてね」
 私「地肌に……」
 先生「そうそう。それから入念に掃除機をかけて。布類は洗濯して……」
さわれもしないのに、どうやって毛をかき分けるんだ……。軽くめまいを感じ、先生の言葉が遠くなっていった。

 重い気持ちを引きずり、家に戻る。ちょうど息子が帰って来たので経緯と症状を説明し、作戦会議となった。
●作戦その1
 毛布を持って後ろから近づいて抱えこみ、首元だけを露出させて、コトに及ぶ。
 結果→毛布を持って近づいただけで逃げられた。

●作戦その2
 棒の先に薬をつけ、その先端で毛を分けて塗り付ける。
 結果→薬は注射器のような容器に入っていて、力を入れて押し出さねばならないので無理。

●作戦その3
 キャリーケースに追い込み、上部の小窓を開けてそこから薬を垂らす。
 結果→そもそもキャリーケースに入れられないので断念。

 最終的には、おやつで引き付けている間に首に垂らし、どさくさに紛れて塗り込むしかないということになり、息子がおやつで引き付けるまでは成功。そこへ私が瞬時に毛をかき分け、薬を押し出すも、力が入りすぎたのか薬を首元一面にぶちまけた格好になってしまった!

 ハトが豆鉄砲をくらった以上に驚いて飛び上がったアンドレ。後ろ足で首元をカッカッカッ~と掻き出した。「え、足、届くん? そこ?」と絶望的な思いだったが、わりに粘着質のある薬だったおかげで、飛び散るというよりは、アンドレが自らの後ろ足で地肌に塗り込める結果に。被毛全体が薬にまみれたようになり、露出している地肌に十分届いている状態に見えた。

「とりあえずこれで様子見ようか。あかんかったらまた薬もらいに行くわ」と息子に伝える。身も心もヘトヘトだったが、そこから掃除、洗濯に精を出した。

 おかげさまで瓜実条虫は姿を消した。結果的にアンドレは自分で治療したことになる。獣医さんによると、ノミは人の衣服についてくる時もあるし、感染経路はわからないから、予防もかねて定期的に薬を塗布する必要があるとのこと。赤んぼや幼児は感染注意だが、大人はまず大丈夫。とはいえ、手洗いはこまめにするようにとの助言を頂いた。

 よく食べ、よく眠り、シャンコが生前使いこなせなかった特注キャットタワーの最上段までタッタッタ~~と身軽に上るアンドレは、その後も順調に成長。数か月を経て、ようやく背中をなでさせてくれるようになった。
 男同士の方が気楽なのか、私よりも息子と気が合うようなのはちと妬ましいが、それはある一件がきっかけになっている。その詳細とアンドレのお友達については、また次回に。

息子と一緒にゴロゴロするまでになりました

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かぞくのカタチ

小林明子
ライター

1962年京都市生まれ。同志社大学在学中からミニコミ誌の制作を始めて以降、ライター稼業まっしぐら。雑誌『あまから手帖』の連載ほか、『文藝春秋』『家庭画報』などに執筆。著書に、生家である白生地問屋での少女時代を綴った昭和の風景満載のコミックエッセイ『せやし だし巻 京そだち』(原作/140B)がある。

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