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かぞくのカタチ

劇的進行中~“夫婦の家”から“家族の家”へ

近藤雄生

近藤雄生(ライター)
子どもができると夫や妻は「親」になる。
海外で5年間、放浪の旅を続けて帰国した「遊牧夫婦」が、やがて「遊牧家族」に変わっていく日々を。

かぞくのカタチ

劇的進行中~“夫婦の家”から“家族の家”へ

第19回 将来への「蓄え」について考える

 子どもは、手がかからなくなると金がかかるようになる。
 と、よく言うが、まさに最近、「金」がかかり始める気配を感じるようになっている。

 まだ長女が小学2年で、次女は保育園に行っているので、その重みが本格的になるまでにはしばらく時間はありそうだが、確実にその足音が聞こえるようになってきた。
 長女はどこに行くにも交通費が必要だし、成長盛りで衣服もすぐに小さくなるのでかなりの頻度で買わねばならない。学童保育の費用もあれば、学校がらみの様々な出費も常にあるし、水泳も習っている。また、外食すれば普通に一人前必要になった。

 一方、次女はまだそんなにはかからないが、保育園代に加え、あれやこれやで病院に行くことも多いので医療費もそこそこかかる(京都市は、医療費がほぼ無料なのは3歳まで)。しかも外食時はよく長女と同じものをほしがって、そんなに量を食べられないのに、「同じのがいい~」と駄々をこねて泣き出したりするために、つい折れて、結局次女にも1人前ということも少なくないのだ。
 一つひとつの額はそれほど大きくないとはいえ、こうした出費はボディーブローのように効いてくる。今後さらに、学費、小遣い、場合によっては塾代なども要るとすれば、出費はどれだけになるのだろうか。いまとは比べ物にならないほどお金がかかるだろう未来のことが、つい心配になってしまうのだ。

 そんな中、とりあえず将来の学費だけはそれなりに確保しておかなければと、この春、久々に各種保険の見直しを図った。長女の分はすでにそのための保険に入っていたが、次女の分は何もしていないままだったので、そろそろちゃんと考えなければと思い至ったのだ。

 近くのショッピングセンターに入っている保険屋さんでとりあえず相談すると、さまざまなプランを教えてくれた。一通り基礎知識を教えてもらうと、それ自体は無料であるが、なかば力ずくで次回の予約を入れさせられる。向こうもタダで保険講義をするだけで終えられてしまっては商売にならないので、考えてみれば当然であるが、もうここで決めるしかなさそうな状況に。担当してくれた中年の女性は親切な人だったので、まあいいかと予約を入れ、一旦作戦を練ったあと、妻の綿密なプランニングを軸にして保険を改めることになった。 
 そうして、学費については、長女に加え、次女についても18歳になるころにそれなりの額が下ろせるような貯蓄型の保険に加入することにした。

 と同時に、自分たちの医療保険や生命保険的なものについても再考した。そしてよくよく調べてみると、自分が突然死んでしまったりしたときの場合の保険にはほとんど何も入っていなかったことに気づかされた。いや、知ってはいたが、改めて説明を受けて状況を理解すると、やはりちょっとこのままではまずいのかなという気にさせられたのだ。

 ただじつは、そうした保険に入っていないのにはそれなりの根拠があった。長女が生まれたばかりだった7年前にさかのぼるが、保険の相談に行ってシミュレーションをしてもらうと、なんと、自分が死んでも妻も娘もほとんど経済的なダメージを受けないことが発覚してしまったのだ。そのとき対応してくれた相談員の男性は、シミュレーションの結果を見て、このように言った。
「ご主人様にもしものことがあった場合……、あ、この結果によると、奥様には、それほど経済的な影響はないようですね……」

 当時ぼくと妻の収入は、概ね同じか自分がわずかに多いくらいだったはずだ。その状況で、ぼくが死んでも問題ないという結論が出た。なぜかといえば、自分の死後、妻と娘がマンションを引き払って同じ京都市内の彼女の実家に転がり込むとすれば家賃はひとまず要らなくなる。かつ、遺族年金が受給でき、その他いくつかの条件が加わると、ぼくの収入分ぐらいは概ねまかなえてしまうようなのだ。もちろん、実家に世話になるなど、他に負担をお願いすることで成り立つ仮定ではあるものの、ぼくが死んでも家族はそう困らない、という結果には我ながら驚きつつも笑ってしまった。
 別に自分は「ご主人様」的存在でいたいタイプではないけれど、さすがに自分の生死が家族に影響しないといわれると、おれはそれでいいのだろうか、という気持ちになった。

 そのおかげで奮起したせいかもしれないが、その後、状況は変わっていった。それなりに収入は増え、次女が生まれてから3年ほどは収入源が自分だけになったこともあり、自分が死んだら家族が立ち行かなくなるのは一応いまでは明らかになった。それゆえ今回は、もしもの場合についてもよりちゃんと考慮して保険に入ることにしたのである。そうして、当然のことながら保険料も増加した。

 いまや、子どものことのみならず、毎月決まって出ていくのは、上記の各種保険、健康保険、年金、家のローン、学童保育料、小学校の給食費、保育園の保育料、住民税、固定資産税、ガス代、水道代、電気代、電話、ネット、スマホなどの通信費、NHKの受信料、自分の大学院の奨学金の返済(残りわずか!)、アマゾンプライム(絡め取られまいとしながらも、諸々の事情からついに入ることになってしまった)……といったところだろうか。
 この上に日々の生活費やあれやこれや購入費が加わるため、まさに入ったお金は流れるように出ていってしまう。現状では、決して子どもが最大の出費要因ではないのであるが、とにかく、日々金がかかること甚だしく、ここに学費やらが載ってきたらと思うと……、いやはや、である。

 そんな中、先日、娘それぞれの名義の銀行口座を開設した。何かの折に祖父母などから娘たちにもらったお金が、家でタンス預金となって貯まっていたため、銀行に入れておく方がいいなということで作ったものだ。ただ、日々生きていくのにかかる費用の現実が見え出すほどに、自分たちも、折々に少しずつでも娘たちのために保険とは別に貯めておいてあげたいという気持ちが湧き出している。

 自分も14年前、結婚するとき両親から、長年少しずつ貯めておいてくれたというお金を貯金通帳とともに譲り受けた。実家に住んでいたころに、母親が時々あまった小銭などを貯金箱にためていた姿を思い出す。そのお金は、何か大きなことがあるときのためにということで一切触らず置いたままにしていたが、4年前、家を買ったときにその頭金の一部として、ありがたく使わせていただいた。そのおかげで、家の材質などをより希望に近いものにすることが出来た。

 現在の自分たちの生活と出費を思うと、自分自身、大学を出るまでにどれだけ両親にお金をつぎ込んでもらったかが概ね想像できるようになった。
 自分たちも娘たちにそれだけのことをしてあげられるのだろうか。現状を考える と、かなり厳しいんじゃないかというのが、いまの偽らない気持ちである。
 ただ、「死んでも大丈夫」だった7年前からは随分変わった。死んだらだめになったことによって確実に自分自身の中の何かが動き出しているのを日々感じてもいるのである。

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かぞくのカタチ

近藤雄生
ライター

1976年東京生まれ。大学院修了後、結婚直後に妻とともに日本を発つ。世界各地 で取材・執筆活動をしながら5年半の海外「遊牧」生活を送る。2008年秋に帰国以来、妻の地元・京都市在住。著書に『旅に出よう』(岩波ジュニア新書)、『遊牧夫婦』シリーズ3巻(ミシマ社)。最新刊は、先のシリーズ第1巻を大幅に書き改めて文庫化した『遊牧夫婦 はじまりの日々』(角川文庫、2017年3月刊)。雑誌『新潮45』に「吃音と生きる」、『考える人』に「ここがぼくらのホームタウン」をそれぞれ連載。ウェブ連載には、本連載のほかに「遊牧夫婦こぼれ話。」(みんなのミシマガジン)がある。2009年生まれの長女、2013年生まれの次女と4人家族。
http://www.yukikondo.jp/

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