Interview

BRUTUS「居住空間学」シリーズ
担当編集者に聞いた、「自分だけの家」って!?

マガジンハウスの人気雑誌『BRUTUS』で、13年間、毎年のように続いている特集「居住空間学」。この特集を参考にして、ご自身の家づくりや住まいを見直してみたという読者の方もきっと多いのではないでしょうか。
今回、この特集を担当するBRUTUS副編集長の杉江宣洋さんに、「居住空間学」特集の制作背景や、この企画を続けることで見えてきた人と住まいのこと、それにまつわる知見などをお伺いしました。

家よりも住んでいる人に焦点を当てた特集をつくりたくて

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2008年から毎年5月に刊行される『BRUTUS』の特集「居住空間学」。家そのものから別荘や小屋、部屋、愛用品、家具など、さまざまな角度から居住空間に迫っています。

ー いつ頃から「居住空間学」の編集を担当されてきましたか?

杉江さん:
2008年の「居住空間学」特集の号からです。
『BURUTS』では80年代にも「居住空間学」というタイトルで特集を組んでいたのですが、2008年にこの特集をもう一度復活させようと編集長が考えていたところに、ちょうど僕が『BRUTUS』へ異動してきて、「この特集やってみてよ」と任されました。

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1982年に刊行された「居住空間学」特集号は、今も編集者・写真家として活躍する都築響一さんを中心に編集され、海外の住まいなどが積極的に紹介されています。

ー もともと杉江さんが住まいへの関心が高かったので、「居住空間学」特集を任されたということですか?

杉江さん:
いえ、すごく詳しいわけでもなく、興味はあったという程度ですね。
思い起こせば、『anan』編集部時代に、エレファント・カシマシの宮本浩次さんの連載を担当していて。彼が一時期、ル・コルビジェにすごくハマっていた時期があって、都内の家具屋をいっしょに巡ったりしたんです。
コルビジェやマルセル・ブロイヤーなどの建築やプロダクトについて、より興味をもつようになり調べたりしました。といっても建築、プロダクトを扱う編集者としてのレベルでいえば、まったく造詣は足りてなかったと思います。

ー なるほど。最初に「居住空間学」を担当することになったとき、どのような特集コンセプトを定めましたか?

杉江さん:
編集長から初めに渡されたのが「住まい手 > 建築」というコンセプトでした。
もっと住まい手に焦点を当てた特集をつくりたい、というのが、編集長が「居住空間学」という特集タイトルを復活させた意図でした。

ー 「住まい手 > 建築」というのは明快な方針ですね。

杉江さん:
かといって、建築家が建てた家をまったく紹介してこなかったわけでもない。建築家の吉村順三が建てた家は、住まい手に愛される理由があるわけで、何度か取材しています。

ー 「居住空間学」特集を2008年にリバイバルして、そこから毎年、「居住空間学」特集を続けている理由を教えてください。2008年の時点でそう決まっていたわけではないですよね。

杉江さん:
そうですね、そこを判断するのは編集長なので、僕はなんとも言えませんが、とにかく2008年の特集号がすごい勢いで売れたんですよね。俗にいう「完売」です。その後の号もおかげさまで好評をいただいています。
家や住まいを特集するのは『BRUTUS』だけがやっていることじゃないですし、続けやすいコンテンツではあると思います。もちろん、そこで紹介する家を探すのはとても大変なんですけども(笑)。

枠やテーマを設けないことで見えてくるものがある。

ー 住まいに関する特集はたしかに雑誌の定番です。その中でも、「居住空間学」の大きな特徴は毎回、驚くような住まいや部屋が取材されていることです。そうした取材先はどのように探されてますか。

杉江さん:
それは、とにかく様々な人に聞いてまわるしかない。ただ、僕は専門誌の編集者と違って、いつも家やインテリアのことを考えてるわけではないんです。たとえば、写真、映画、旅の特集を手がけたり、東京のガイド本を担当したりもする。
そうした取材を通じて、建築やインテリア業界の中にいるだけでは出会えない人たちと会うことができる。篠山紀信さんの連載「人間関係」(※文化人や芸能人らの2ショットを篠山紀信さんが撮影し続けている『BRUTUS』誌の名物連載)の担当などもしていますから、かなり幅広い人たちと会ってきたと思います。

ー 住宅や建築専門の人たちとは情報の収集源がまったく違うわけですね。

杉江さん:
もしかしたら、そうかもしれませんね。
2008年の表紙になっている、熊谷隆志さんの家にしても、仕事の付き合いに加えて、個人的な付き合いもあったので「取材させてください」とお願いできました。

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「居住空間学2008」で表紙を飾った、熊谷隆志さんの家は「居住空間学2013」で5年後に再訪されています。表紙写真にも部屋の移り変わりがみてとれます。

ー 毎年の特集ごとにテーマのようなものはあるのでしょうか。ベタな言い方をすれば、今年のトレンドはこれだ!といったことですけど。

杉江さん:
取材先の人たちにも「今年のテーマは何ですか?」とよく聞かれますが、でも実は、テーマはないんです。
なぜかといえば、たとえば「素敵な収納」というテーマを立てたとすると、収納の枠組みでしか物事が見えなくなってしまうから。そこからはみ出るような面白さを受け止められなくなってしまう。だから、そこはなるべく曖昧なままにしていますね。

ー なるほど。といっても、それぞれの年ごとの流行や世間の流れみたいなものは見えてきますよね。

杉江さん:
そうですね。僕は編集者なので、その質問が出てくることも理解できるのですが、そこを見てつくってない、つくらないようにしています。誤解されたくないのは、トレンドを追いかけるのもまったく悪いことではないということ。
ただ、それは画一化されていく流れに乗ることにもなるので。かっこいい言い方をすれば、「居住空間学」で取材した家がそうした流れの発端になっていればいいなと思います。

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実際、過去の特集号を見ても、写真や言葉はまったく古びていません。たとえば、「家具が育てる部屋」というキャッチコピーがついた「居住空間学2010」、その巻頭で紹介された吉田昌太郎さんの住まいの記事。

ー では、そうした取材対象となる住まいの基準は何かありますか。

杉江さん:
噂で「あのひとの家、いいらしいよ」と聞いても、現場を見ることなく取材をすることは決してありません。
取材をする前段階として、土地と家を拝見させてもらって、きちっと話を聞いてから判断するというのは最低限の編集方針にしています。当然のことですけども。
基準としては自分がどれだけ驚くことができたか。かっこいい!というよりは、なんだこれは!という反応が出るような、誰も見たことがない家、暮らし方を求めていますね。

ー 既存の枠に収まらないという方向性は、毎号テーマを設定しないことにも通じますね。

杉江さん:
それって、ぱっと見てわかる面白さだけでもなくて。養老孟司さんのいう「虫眼」で見ていくことでわかる面白さもあります。
「居住空間学」をつくりはじめた頃は、1枚の写真にどれだけ情報の密度を入れられるかも意識していました。それほど大きく掲載していない写真だったとしても、その1枚の写真から、そのひとが使っている家具、棚に置いてある物など、なぜそれを選んだのか、といった情報を読み取ることができるように。それが、この特集の面白さでもあると思います。

ー きっと虫眼鏡で写真を見た読者もいるのではというくらい、細かな部分まで気になる住まいが多く登場していますよね。

杉江さん:
今っぽくてかっこいいだけの家だとあまり話も広がらないし、写真も決まった角度から撮影して、あっという間に取材が終わってしまうと思う。
まさにハウジングセンターというのはそういう機能だと思うので、ぱっと見てかっこいいが重視されるところもあるでしょうけど、「居住空間学」で紹介する家はそうじゃない。
住まい手の思いが誌面からこぼれ落ちるような濃密さを求めています。

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「居住空間学2020」で紹介された、Swimsuit Departmentの郷古隆洋さんの住まい。写真1枚に写るものひとつひとつが気になります。

家のことは決してセンスだけでは語りきれない

ー 杉江さんご自身は、どのような家に住まれていますか?

杉江さん:
僕が「居住空間学」の特集を担当していると言うと、「すごくお洒落な家に住んでるんでしょうね」って思われがちですけど、決してそんなことはなくて…。
というのも、驚くようなすごい家というのは、センスだけでは実現不可能で、どれだけの時間と思いを費やせるかがやっぱり大切なことだと思うんです。

ー個人的に、家そのものを自分でつくってしまうような、セルフビルドな暮らしを実現している人の記事が印象深いですね。住まいに投入する時間量が桁違いに多そうです…。

杉江さん:
そうですね。だって、既製品を買ってくればいいのに、「それでは違う」と思うから、自分で選び直したり、場合によっては一からつくったりしてしまうわけで、それは途轍もないエネルギーです。
家のドアノブがちょっとイヤだなと感じても、ふつうは諦めて共存していくものじゃないですか。だけど、そこで立ち止まって自分で選び直せるか。僕はそこまでやれません(笑)。

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「居住空間学2018」の巻頭を飾った、OLAibiさん&谷本大輔さんの家は鳥取の森に建てたセルフビルドの住宅。

ー 家に対して、どこまでこだわることが出来るか? と問いかけられてるようでもあります。

杉江さん:
しかも、彼らはただ手を動かしてるだけじゃなくて、家に対して頭をずっと働かせ続けている。それも社会生活を送りながら。
そういう意味では、彼らは人生を賭けてるわけで。驚くような家というのはただセンスだけでできてるわけじゃないというのは、「居住空間学」特集を通じて伝わればと思っていることです。

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「居住空間学2011」で紹介された大阪の家具職人TRUCKの黄瀬徳彦さん、唐津裕美さんの住まい。キッチンをより明るくしたいというので、天井の分厚いコンクリートに穴を開けて天窓をつくったそう。「その発想は湧いても、行動に移すことはなかなかできません」と杉江さん。

ー 特集を読んで、センスがよすぎてマネできない…という感想をもつ人もいるかもしれないけど、センスというあやふやな基準だけで家は図れませんね。

杉江さん:
家や住まいをどう形づくるかって、決して誰かのためにつくるわけじゃないですよね。特集で紹介している家にしても、取材して記事にしたことでたまたま多くの人が目にすることができる。でも、本来、家の中身って家族、友人、知人以外の目にはまったく触れる機会がないわけだから。

ー そうですね。そこに他人の目はなくて、自分の目だけがある。

杉江さん:
そこが洋服へのこだわりと違うところだと思います。洋服は見られるという要素があるけど、家は究極、自分のためでしかない。
そこに多くの時間を費やして、突き詰めていく…といえば、すごいことのようにも聞こえますけど、当たり前のことなのかもしれない。だって、家がいちばん長く過ごす場所なんだから。

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杉江さんが印象的な記事だったという高知の沢田マンション。セルフビルド×集合住宅というあり方は現在でも唯一無二。「居住空間学2008」より。

住まいのコトはその人の生き方に直結してる、かもしれない。

ー 毎年、編集担当する中で、住まいを取り巻く環境やコミュニティについて、取材を通して見えてきたことはありますか?

杉江さん:
それは、住んでいる土地によって違ってくると思います。たとえば、栃木の益子に住む人々の家は何度か特集で取り上げていますけど、スターネット主宰の馬場さん(馬場浩史さん、2013年逝去)の家を取材した時に、その周りにクリエイティブな人たちが集まっているというお話があったことがきっかけです。
取材の手順として、コミュニティが成熟してるから、ではなく、やっぱり個々の人や気になる住まいからはじまるのです。

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「居住空間学2013」では栃木の益子、沖縄の玉城という土地に魅せられた人たちの住まいを取材。この企画も「行ってみたら、うちよりも面白い人がいるんだよ」と紹介の輪がつながったことで生まれたそうです。

ー 杉江さん個人として、住まいのコミュニティについて何か思うところはありますか?

杉江さん:
それが潜在的か、意識的にやっていることかわかりませんけど、ある土地で生活していく上でご近所さんとの関係性は無視できないことだと思います。
「居住空間学」の話に戻ってしまいますが、この特集を通じていろんなヒントを伝えられたらいいと思っています。それが人によってはコミュニティのことかもしれないし、インテリアや心地よい暮らしのことかもしれない。人生設計まで広がるかもしれない。登場する人たちの家、暮らしぶりを通じて、こういう生き方があるんだというものが見つけてもらえればいいなと思っています。

ー「居住空間学」という特集タイトルの意味もわかってきた気がします。

杉江さん:
インテリアデザイナーや建築家がプロデュースした家を取材して、そのコンセプトは?と聞けば、彼らは流暢に語ってくれると思います。だけど、「居住空間学」で取材しているような家では、住んでる人はそんなにスラスラと語ることはできない。
そもそも、自分の家に対してどう思っているのか? あなたはどういう風に暮らしているのか? と尋ねられて、住んでる人から出てくる言葉は、対外的なものではないんですね。ある意味で内側をえぐるような部分まで見せてもらっているので。
大事に大事に語ってくれる言葉を紡いでいかなければいけません。

ー 居住空間学とはすなわち人生哲学かもしれませんね。

杉江さん:
どうでしょうか。ただ、キッチンにどうしてこの道具を置いてるのかを尋ねることは、あなたは今までどうやって生きてきたのですか? って聞くのと、同じ質問だなと思うことはあります。極論ですけどね(笑)。

  • 杉江宣洋

    杉江 宣洋

    マガジンハウスで『anan』『BOAO』編集部を経て、2008年から『BRUTUS』編集部在籍。同年、「居住空間学」特集を担当。以来、毎年「居住空間学」特集を手がけている。現在、『BRUTUS』副編集長。

    マガジンハウスで『anan』『BOAO』編集部を経て、2008年から『BRUTUS』編集部在籍。同年、「居住空間学」特集を担当。以来、毎年「居住空間学」特集を手がけている。現在、『BRUTUS』副編集長。

  • 企画編集:太田 孟(合同会社バンクトゥ)
    取材・文:竹内 厚
    写真:山北 茜
    取材協力:ブルータス編集部

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