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平野 愛

平野 愛/写真家

その日の記憶を文字だけでなく写真と一緒に残せたらどれだけ素敵だろうか。 身の回りの「残像」を積み重ねていく楽しさを書きとめていきます。

第5回 小さな移動、大きな変化。

「次のコラムから“いごこちのカタチ”へ移動してもらっても、いいでっしゃろか」

 と編集のNさんから、今度は以前わたしが居させてもらった“いきかたのカタチ”グループから、“いごこちのカタチ”グループへの移動のお話を頂いたのが1週間前。とは言え、大きな変化はなく、写真のこと家のこと、引き続き気張って書かせて頂こうと思う。どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、こうしてちょっとだけ何かが変わることは結構気持ちがいいもので、ものの見方や感じ方まで変わる。このコーナー移動のお話を頂いただけで、急に家の中のいごこちについて気になってきた。

 そのせいか、5歳の息子と久しぶりにおもちゃ箱の整理をした。おとなが思う以上にこどもにとっておもちゃは大きな世界なので、絶対に勝手に捨てないでいようと思っている。ゆえにおもちゃの整理は、必ず一緒に確認する。壊れたものなども、「バイバイ」ではなく、「保留袋」に入れて置いておく、という一手間も。まどっろこしいかもしれないが、そうすることでこどもにとっての心の安定に繋がるように思う。

 おもちゃの整理という「小さな出来事」がこどもにとって「大きな出来事」であるように、些細な変化が大きな変化を生み出すことがおとなのわたしたちにもある。

 わたしにとってのそれは日常のカメラを持ち替えてみたことだ。

 この夏、5年間つきあってきたフィルムコンパクトカメラのKLASSE Sから、フィルム一眼レフカメラのCONTAX RTSへスイッチした。
 その変化は例えるなら、細マッチョからゴリマッチョへとでも言おうか。

 小さいわりにええ仕事をするのがフィルムコンパクトカメラのKLASSE Sだった(コラムの第2回参照)。幼いこどもを抱えながら撮り歩くには、オートフォーカスで軽量、なのにレンズ写りはしっかりしていたところが便利。そして見た目も黒く引き締まったボディがかっこ良く、このカメラは約5年間大活躍してくれていたのだった。
 こどもが生まれる前から産む時までもご一緒し、その時撮影した写真はカメラ雑誌での赤ちゃん特集に掲載して頂いたことも。分娩台でも使えるカメラってマッチョすぎ!と自分でも感動してしまうくらい、本当にどんな時でも一緒にいられたKLASSEに感謝しかない。

 しかしあれから月日が流れ、こどもが5歳になった頃から少し手が離れ、自分の身に少しだけ自由を取り戻してきたように感じた時のことだった。

 友人がフィルム一眼レフを肩から斜めがけして、軽やかに街や人や食べ物を撮っている姿を見た時に、急激にあるカメラのことが気になりだした。

 それがフィルム一眼レフカメラ、CONTAX RTSだ。わたしが写真家としてキャリアをスタートした時に使い始めたCONTAXシリーズの当時最高機種であり憧れの逸品。発売当時の価格は50万円以上したうえに、カールツァイスという高級レンズをくっつけてのプロ用一眼レフ。それを2年前に仕事用に購入し、数々の現場をともにしてきていた。わたしの写真家人生を支えてくれている骨太で、まさにゴリマッチョなカメラである。

 そんなゴリマッチョさんと日常にまでご一緒するなんて、思いもしなかった。

 なにせずしりと重い。KLASSEが300gくらいだとすると、こちらは1.5〜2kgほど。5倍以上の筋肉が装備されている感じである。仕事中に使っている時には何とも思わないその重量感が、日常にも入り込んでくること。まずそれが大きな変化だった。その重さを感じながらも、逆に画角の安定感や写真1枚への深さにも比例してくるように改めて感じた。

 早速屋外へ持ち出し、こどもとともに公園や川辺をともにした。ファインダーには光が溢れるように入り込んでくるし、シャッター音は空気を切るほどの鋭さがあった。コンパクトカメラでは捕らえきれなかった光の輪郭までもくっきりと見える感覚。見たかった風景、残しておきたい一瞬が、0.1秒の遅れもなく切り取れる感覚。これには久しぶりに心が震えたのだった。

 写真家だったら、カメラを変えることなんて日常茶飯事と思われるかもしれない。もちろんそういう方の方が多いだろう。しかしこんな写真家もいて、ちょっとカメラを仕事場から日常へ移動しただけで、大きな変化や感動を得てしまうことだってあるんだ。

 さて、次は何を撮ろうかな。
 もう少しこの小さな移動と変化を楽しんでいこうと思う。

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