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平野 愛

平野 愛/写真家

その日の記憶を文字だけでなく写真と一緒に残せたらどれだけ素敵だろうか。 身の回りの「残像」を積み重ねていく楽しさを書きとめていきます。

第25回 ドラマ、スチール、25年前を思い出しながら

 2020年1月、暖冬。年末までは富山や仙台、滋賀の湖東から神戸を飛び回っていたが、ほとんどインナーとシャツの2枚くらいで過ごせていた。お正月の京都の冷え込みも例年に比べると、“かなりまし”だった。もちろん、まだ一度も雪を見ていない。


 NHK土曜ドラマ「心の傷を癒すということ」のスチールのお話を頂いたのは昨年の秋口のことだった。阪神・淡路大震災の際に「心のケア」のパイオニアとして、被災地で奔走された精神科医の物語。ポスターやWEBのビジュアルだけでなく、「劇用スチール」と言って、ドラマの中で俳優が手に持ったり、セットの一部になったり、「小道具」として使われる写真を撮影する。もちろん、全てフィルム。ずっと映像の世界の中で写真の仕事をしてみたいと思っていたので、それはそれは胸が高鳴った。

 と同時に、その場で演出家の方から見せていただいた分厚い資料を手にすると、主人公となる先生の人柄と制作陣の熱量が、強烈な勢いで伝わって来た。そしてある一枚の写真を見た瞬間、思わず涙が溢れそうになった。台本もまだ手にしていなかったのだけれど、強く惹き込まれるとともに、身が引き締まる思いだった。


 25年前。あの日はとても寒かった。1995年1月17日午前5時46分。わたしは京都にいて高校1年生だった。2階で家族と寝ていたところ、ゴゴゴゴドドドドドバンバンバンギシギシギシ!という聞いたこともないような地響きと轟音。「大変や! 愛ちゃん!!」と父が叫びながら、本棚の横に寝ていたわたしの上に覆い被さって守ってくれた記憶が鮮明に残っている。ハッと、隣に寝ていた妹を見てみると、何も気づかずスヤスヤ寝ていてホッとした。それにしても、築80年近く経っている実家そのものの揺らぎと、父の心配声が恐ろしかった。

 幸い、大きな崩れなどなく、先の父の動きをすごいジャンピングだったなぁと思い出しながら一階に降りた。食器棚のものが割れていないか確認したり、テレビを付けたり、石油ストーブを付けようとして、やっぱり危ないということでジャンパーを着たりした。そうしながらも、一つだけ頭の中にあったのは、

 今日は部活ないかなぁ。ないといいなぁ。

 と考えていたことだ。この大惨事に(とはその段階では分かっていなかったのだが)、一番初めに考えていたことはそんなことだった。

 スマホもインターネットもなかったし、テレビとラジオが最速の時代。おばあちゃんはラジオに耳を傾けていた。テレビのテロップで「震度7、6、5」という見たこともない数字が出た時には、地球が割れたんちゃうか! 学校の体育館も潰れていてほしい! と極端な思考で、どうにか朝練(バスケ部に入っていた)をなしにしてほしいと願っていたのだった……。それくらい、当時、部活がしんどかった。結局、部活はなくならなかった。

 部活のことばっかり考えていたわたしだったが、地震発生後数日くらい経ってくると、そうも言っていられなくなった。テレビに連日映し出されていたのは、10代の自分には理解を超えた風景だった。京都の高校からは運動部から選抜されたメンバーが、物資運搬のボランティア活動に出動するらしく、母校からも男子の野球部のみ現地に向かうとアナウンスがあった。当時のわたしは、ボランティア活動は学校単位で行くものだという知識しかなく、個人で活動するという選択肢は思いつくことができなかった。

 それから東日本大震災をはじめとした数々の災害を経てもなお、わたしにとっては大きすぎるが故に、どんな風に向き合えば良いのかはっきりと掴めずにいた。


ドラマの撮影現場

 2019年10月。25年前を思い出しながら、ドラマの撮影現場に初めて足を踏み入れた。冷たい雨の降る須磨海岸。一瞬の晴れ間を狙って合計50人くらいのスタッフとキャストが待機する。光や空気、風を待って、皆が一点に向かっていた。あぁ、こうやってテレビドラマというのは紡ぎ出されていくのかと、感動で思わず前のめりになってしまった。

 その後、撮影を重ねていきながら、被災当時の避難所や街の風景、家族の姿に、初めて向き合うことができた。もちろん、ほんの少しだけなのだけれど。ただ、そのほんの少しがわたしにとってはとても大きな一歩になった。

 11月。撮影も半ば頃、ポスタービジュアルの撮影。デザインと編集を担当する夫とともに台本から受け取ったイメージを、いくつもスケッチした。そしてプロデューサーと演出家の方々がその中の一案に決定くださり、スタジオのセット内で主演の柄本佑(たすく)さんと対峙した。窓から逆光の光に包まれている先生を撮影したいと伝えた。照明部さんが絶妙な位置に一灯置いてくださった。その光の的確さに、安心感でいっぱいになった。

 デジタルカメラでテストをして、フィルムカメラで本番撮影をすること。演出家の安達もじりさんが一言二言だけ柄本さんにイメージを伝えられた。その言葉だけで、柄本さんの表情はみるみるうちに穏やかになっていった。素晴らしかった。フィルム1本で押せるシャッターは16回。その1本で撮影は終わり、フィルムの巻き上げ音と同時に、拍手が起こった。うまく言葉にできないような、とっても幸せな撮影だった。

 放送は2020年1月18日よる9時から。このドラマがたくさんの人に届くことを願うばかりだ。

プロデューサーの堀之内礼二郎さん撮影
プロデューサーの堀之内礼二郎さん撮影。スタッフの皆さんが後ろから微笑んでくれていることがわかって、とても嬉しくなった一枚

NHK土曜ドラマ「心の傷を癒すということ」
公式ポスタービジュアル

NHK土曜ドラマ「心の傷を癒すということ」
2020年1月18日(土)よる9時スタート(毎週土曜・全4回)
出演:柄本佑・尾野真千子・濱田岳・森山直太朗・浅香航大・清水くるみ・上川周作・濱田マリ・谷村美月・趙珉和・内場勝則・紺野まひる・平岩紙・石橋凌・キムラ緑子・近藤正臣
原案:安克昌 脚本:桑原亮子 音楽:世武裕子
https://www.nhk.or.jp/drama/dodra/kokoro/

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