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平野 愛

平野 愛/写真家

その日の記憶を文字だけでなく写真と一緒に残せたらどれだけ素敵だろうか。 身の回りの「残像」を積み重ねていく楽しさを書きとめていきます。

第23回 夏こそ一休み、一休み。

 まずは、平成最後の日に、20年分のフィルム整理を完了したことからご報告したい。数にして、数千本あった。それらを年代ごとに仕分け、ナンバリングとタイトル付け、そしてパッキングしていくという果てし無い作業。何度か心が折れそうになりながらも、前回のコラムで宣言したことが、スタッフ一同の士気を高めてくれていた。

 これで私に何かあっても、誰かがしっかりとフィルムを手にすることができる。データではなく、物質として残せていることにさらに安心を覚えた。人生80年としたら、ちょうど半分の今、やっておきたいことが一つ完全に叶ったのだ。とても幸せなことだ。

フィルムのジャングルから抜け出した事務所とアシスタントたち。木々が生き生きと伸びてきた
フィルムのジャングルから抜け出した事務所とアシスタントたち。木々が生き生きと伸びてきた

 足の踏み場もないような約1ヵ月から、すっかり床も見えて、日常を取り戻した。そして、雨の季節がやって来た。

 ほどほどで良い梅雨だが、今年も日本では局所で猛威を振るっていて恐ろしい。昨年の猛烈な暑さも恐ろしかった。今年はフランスで6月28日に気温が45.9度を記録したことがニュースになっていた。フランス史上最高気温だそうだ。一体どんな感じなのだろうか。

 私は昨年7月末、大阪の葡萄畑での撮影で42度を経験した。真横に温度計があったので間違いない。人生で初めて見た数字だった。ただ、葡萄たちの実や幹、葉っぱ、根や土のおかげで体感的には38度というような感じだった。水と塩分をしっかりぶらさげ摂取し、取材班とは常に体調確認の声を掛け合いながら挑んでいた。おかげでみんな無事だったが、一歩間違えると大変なことになることは容易に想像できた。

「休憩と休憩の間にお仕事を」「90分撮ったら一休み」を私のチームは常々大切にしている。だって、しんどいもん。私より周りのみんなの方が。昨年の猛暑を経て、撮影している自分以上に、アシスタントをはじめとするスタッフ陣の体調が危ないということに気づいたのだ。自分は自分のペースで進めるが、スタッフ陣はそれに合わせてくれることが多いからだ。人に合わせるってだけで、しんどいもん。

 そんな訳で、私の撮影現場はもちろんながら、事務所内でも休憩時間をみんな楽しみにしている。現場では、スケジューリング段階で、休憩時間の確保とともにできる限りどこでお茶するかのリサーチをしておくし、事務所内ではこの春から15分間必ずお茶の時間を作っては、各々好きなお菓子で一休みする。アシスタントの一人は、珈琲のドリップがとても上手くなっていたりしている。

 一休みの極め付きは、私が毎年8月撮影のお仕事を完全にお休みさせて頂いていることだろうか。大勢に驚かれつつも、ほとんどの方々にとても好意的に思って頂けているようなので、少しここでお話してみたいと思う。


 きっかけは、第14回のコラムでも書いた病気のことがある。8年前に重症肺炎を患ってから、一時期喘息とアレルギーを強めてしまった。今は完治しているのだが、いつまた発症するかわからない病気ゆえに、特に日光には注意している。8月の強い光の摂取をできる限り抑えることで、昨年は1日風邪を引いただけで、364日元気に過ごすことができた。冬を越えるために、夏から準備しているというイメージだ。

 仕事先の方々とスケジューリングをする際に、もちろんこの“夏の一休み”についてのことをお話しする。すると、皆さん一様に「素晴らしいですね」と言ってくださる。できることなら同じようにしたいという、理解の深さを感じる。そして、こちらのペースに合わせて日程を調整してくださるというリズムが出来上がっている。それをもう当たり前のように8年間。

 そんな「夏の一休み」期間は、1ヵ月全く仕事をせずベランダの植物に水をやったり、子供と過ごすだけの年もあったし、事務や原稿書きの仕事はしていた年もある。そのあたりはあまりキチキチ決め込まず、緩やかにその年の気候に沿って動くことにしている。もちろん8月に撮影できない分が前後の7・9月にどっと押し寄せてくるし、アシスタントたちの助けがあってこその働き方だと思うのだけれど。

 そう、気候に沿うこと。

 私たち、これ、意外と忘れてやしないだろうか。地震の後、地面はクタクタだし、大雨や猛暑の後は、生き物全体がクタクタだ。

 昨年の自然災害の数々なんて、クタクタのピークなのだ。畑や森にいくと、植物たちははっきりとその疲れを全身で示していたよ。今年の春に竹藪に入った時は、全体が黄色い色をしていた。本来なら青々としているはずなのに、昨年の疲れは今年にも現れることを知った。
 そのお疲れ具合といったら、涙が出そうなくらい明らかだった。今年の野菜の不作、値段の高騰も、実は半分くらい前の夏のことが影響しているのだ。

 昨今の異常に迫力のある自然の動き。何もないわけがない。いくらエアコン完備の世界といえども、きっと人間も、目に見えない気候の影響を受けているに違いない。

 何だかちょっと調子が悪いなと思ったら、その前後の気候をざっと見てみてもいいかもしれない。それから、あの一休さんのセリフを思い出してみるなんて、どうだろうか。

「あわてないあわてない、一休み一休み」って。

 その一休みが、すごいヒラメキを与えてくれるかもしれないから。

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