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平野 愛

平野 愛/写真家

その日の記憶を文字だけでなく写真と一緒に残せたらどれだけ素敵だろうか。 身の回りの「残像」を積み重ねていく楽しさを書きとめていきます。

第11回 雨とモーテルと沖縄のこと

 7月。梅雨のまだ中休みのタイミングにこのコラムを書いている。

 いきなり灼熱の暑さが襲い、夏がもう来たのかと、一瞬怯んだ。「日本気象協会」の発表によると、今年は“全国的に曇りや雨の日が多く、梅雨らしいぐずついた天気になる見込み”だったそう。
 確かにそうだった気がする。低気圧のせいで撮影仕事の足取りもちょっと重たい日が多かったし、蒸し暑さのせいで汗と菌がコラボして、カメラを覗く目の回りが皮膚炎になったりも。何かと鬱陶しいことが続いていた。

 さらに困ったことに、カメラのファインダーを覗く目(わたしの場合、左目)というのはそうそう換えられるものではないみたい。ちょっと試しに右目で覗いてみようとやってみたが……なんということでしょ。全然覗けない! ファインダーの中も真っ暗に見える(焦点が合わない感じ)。
 20年も同じほうで見ていたのに、自分が左目で見ていたことにも皮膚炎になるまで気づいていなかったという……。これってわたしだけ!? 近くのカメラマンたちに聞いてみたいものだ。

 とはいえ、梅雨や台風の季節の雨降りには、なぜかいつも「あ、あのダムに水が溜まるな。琵琶湖にも溜まるな。今年も大丈夫だな。よかったな」と近畿周辺のダムや湖に思いを馳せる。
 例えば第9回のコラムにも出てきた篠山のダムもそのひとつ。第4回のコラムに書いた京都の洪水のような多すぎる雨は恐ろしいけれど、ほどほどの雨は本能的に有り難い気持ちになる。



 そして、雨といっても肌寒い雨が降ると最近決まって思い出すのは、沖縄のこと。

 ちょっと遡って春先のことになる。[SPICE MOTEL]という新しいリノベーションホテルのオープンに合わせて、いち早く泊まってみたいと思い家族3人で向かった。
 すでに行ってこられた方からのアドバイスを参考に、空港で車を借りず、ゆいレールというモノレールで数駅先の駅前で車を借りた。待ち時間もなく、すいすいと中心街の賑やかな雰囲気を抜けて、県中部の北中城村(きたなかぐすくそん)へと進んだ。

 到着したのはもうすぐ日暮れという時刻。車の中では何も感じていなかったのだけれど、あれ、もしかして、寒い? はじめて足を踏み入れた沖縄。それこそ、すでに夏日の半袖・タンクトップというイメージだったのに、「珍しくとても寒い」と現地の方の言葉さえも。
 それに、風がとても厳しい。いつもの関西でふわっと感じている風とは全然違う種類。しっかり立たねば、と思うような風。ギリギリ持ち合わせていたカーディガンと上着を着込んだ。

モーテルとは自動車旅行者のためのホテル。車を部屋の前までつけられる

部屋の中。2段ベッドに大喜び。お風呂はシャワーのみ、テレビやクローゼットなどはなく、限られたアイテムで構成された空間。窓の外は森

 次の日は朝から[ちゅら海水族館]を堪能してから、帰路、読谷村(よみたんそん)の「やちむんの里」へ。やちむんとは“焼き物”のこと。さまざまな陶芸家たちがここで制作し、その場で作品を購入できるようになっていた。ゆっくりじっくり巡ろうと思っていたが、車を降りると、風は初日に増して激しく吹き付けてくる。 
 沖縄の自然は、何ともわたしたちに厳しい。

やちむんの里。北釜の作家さんの器を見たくて向かっていたのだけれど、あまりの向かい風にここでリタイア。せっかく来たのに、とも思ったけれど、自然の威力には抗えない。辺り一体誰もいない。不安が増した

 宿の近くのアメリカンレストランでお肉をほおばって、早々に寝床にもぐりこんだ。

 夜中ふと目を覚ますと、風の音、強まる雨の音、葉っぱの擦れる音、いろいろな自然の音がゴオオオオと重なり合って聴こえる。家族はみなスースーと寝息を立てていた。少し恐ろしくて、目を開けないまま、1人じっとしていた。
 いつのまにか再び眠っていたのか、夢の中で私はモーテルの窓の外の風景を眺めていた。そこに1匹の大蛇が。建物をそっと守るように、そろりそろりと動いていたのだった。
 恐ろしいとは思わなかったが、その大蛇から一瞬も目を離すことができなかった。

 朝、目を覚まして、すぐに窓を開けた。もしかしたらまだ外にいるのかもしれないと思ったのだ。きっとあれは、この辺りの“神様”だったに違いない。そう思って、辺り全体を見渡した。

 もちろん“神様”はいなかった。
 その代わり、やっとイメージしていた沖縄らしい強い光が木々の間から降りて来ていた。「晴れたよ!」そう言って皆を起こして、外に走り出たのだった。

SPICE MOTELにて。光が嬉しくて支配人に記念写真を撮っていただく

そして海へ。帰り道に少しだけ立ち寄る。水はまだすこし冷たいが、打ち寄せる波に、しばし時間を忘れて遊んだ

 最後に、お昼ご飯をたべて空港へ向かうまでの束の間、やちむん通りへと立ち寄った。たくさん並ぶやちむんショップに目移りしながらも、これだ!と思う器を手にした。今回はこれで十分。そう思った。
 そしたら「それは北釜の作家さんの器ですよ」と店主さんが教えてくれた。自然の流れに沿って動いていたら、ちゃんと最後にご縁があった。

 その時また、サワサワサワっと音がしたような。あれもまた、気のせいだったのかな。
 思わぬ肌寒さに雨が重なると、こんな風に沖縄を思い出す。

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