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平野 愛

平野 愛/写真家

その日の記憶を文字だけでなく写真と一緒に残せたらどれだけ素敵だろうか。 身の回りの「残像」を積み重ねていく楽しさを書きとめていきます。

第26回 わが家は今、家の中。

 2020年4月。40年と少し生きてきた中で、こんな生活が来るなんて、と、私もだけどみんな初めての状況を更新し続けている毎日。

 昔、おばあちゃんの部屋で寝転びながら聞いていた戦争の話と、なんだかちょっと重なることがあってとても恐ろしい。特に思い出すのが、京都の家の前にも焼夷弾が雨のように落ちてきて、全速力で走って逃げたということ。今に置き換えるとそれは新型コロナウイルスのようだ。気持ち的には全速力で走って逃げているような感じ。もっとも、こちらは家の中にいるのだけれど……。

 当コラムはいつも編集の中島さんから2週間前くらいに、締め切り日とコラムの内容の提案をいただく。2週間前の3月20日頃といえば、7月の東京オリンピック開催がまだ予定されていたし、データ上では陽性患者も1,000人を超えてはいなかった。それが、3月24日にオリンピックの延期が決定して以降、刻一刻と状況は悪化していくではないか。一体これからどうなっていくんだろうか。今回は思い出せる限り、家の中の生活を振り返って記しておきたいと思う。


2020年1月中旬。
 前回のコラムで書いたドラマの放送が始まった(ご視聴いただいた皆さん、ありがとうございました!)。毎回、テレビの前に正座しながら涙を流した。息子に「泣きすぎ」とツッコまれるくらいの嗚咽。物語そのものへの感情移入はもちろんながら、自分たちが製作した写真が映像を通して数百万人の方に見てもらえているのかと思うと、どうにもこうにも感動が止まらなかったのだ。その後、「ブカン」という言葉を耳にする。

2020年1月下旬。
 恥ずかしながら、「武漢」という街を知ったのはこの時が初めて。
 1月23日、その“街を閉じる”という事態へ。街ってどうやって閉じるんだろうかと横目に考えながらも通常通り生活。映画館へも週2回ペースで仕事の合間に向かう。『パラサイト 半地下の家族』『his』『mellow メロウ』『つつんで、ひらいて』。

2020年2月上旬。
 ほぼ毎日撮影現場。2月5日の移動中、横浜に到着した「ダイヤモンド・プリンセス号」のニュースを見る。即座に映画『タイタニック』を思い浮かべる。あの時のレオナルド・ディカプリオは美だった。いや、その前の『ロミオ+ジュリエット』、いや、その前の『太陽と月に背いて』も凄かった。などと思い返しては、やっぱ『インセプション』好きだわ、観返したいなぁ、と呑気な事を考えていた。ただ、街から外国人観光客が急激に減ったように感じる。映画館へは1回。『静かな雨』。

2020年2月中旬。
 引き続き、毎日撮影現場。移動中はいつも通りマスクを付ける(インフルエンザの予防を重視)。主に神戸。よく歩く。平均1万歩。この頃からダイヤモンド・プリンセス号に乗船中の乗客のツイッター発信を追うようになる。客室から一歩も出られない隔離生活。どんなものを食べているとか、クルーの様子、医療チームの様子など。ニュースや新聞で見るもの以上に、深刻さが現実的に見えてくる。外を歩けば歩くほど、船の中へ想いを馳せる。みんなも歩けているのかな。エコノミー症候群などにはなっていないのだろうか。大阪ではもうマスク、アルコール消毒剤が手に入らない。“買い占め”という文字が浮かぶ。危険な予感。映画館へは1回だけ。『サヨナラまでの30分』。

2020年2月下旬。
 スーパーマーケットに異変。衛生用品の減り、米の減りのスピードの速さを感じる。2月22日、仕事場のスタッフと一人暮らし中の若い友人に連絡。「買い占めが始まる予感がするので、お店の棚をちょっと気にしておこう。大丈夫だったらそれでいいしね」と。映画館にもしばらく行けなくなるかも。一旦見納め。『Red』『影裏』。

 2月28日。小学校より、2月29日から3月13日までの臨時休校の連絡を受ける。

2020年3月上旬。
 一気に撮影・取材のキャンセルが入ってくる。不特定多数との接触のあるプロジェクトが多かったので、良かったという気持ちと、今後の不安が半々。それ以上に、休校による子供の居場所を考える。息子は学童に所属しているが、接触機会をお互いに減らすに越したことはないと、家で一緒に居ることにした。ちょうどその時、幼馴染の子どものお母さんと情報共有をしていくうちに、交代で預かるスケジュールが自然にできていく。お互いの行動履歴が把握できて、信頼できるからこそ。勉強の時間、運動の時間、遊びの時間、お迎えの時間を決めて、どこに居てもできる限りそれに沿うようにする。人との接触のない屋外撮影の仕事には、子供たちを連れ出して、思い切り走らせる。

2020年3月中旬。
 仕事で初めてモノクロプリントに取り組む。その道45年のプリント技師さんと出会い、連日その暗室に出向く。暗闇に浮かぶ像を眺めているのが楽しくて仕方ない。写真の話、プリントの話、カメラマンの話、次から次へと出てくる話題に盛り上がっては、あっという間に2時間ほどが経つ。嬉しい。

 日本の感染者数が約800人*に倍増。休校期間の延長通達。春休みまで含めて1ヶ月以上となる。3月16日には学校に行けるものだと思っていたためか、落胆が激しい。思っていた以上に気を張っていたことに気づく。

 休校になって初めの2週間は外出自粛モードが強かったので、公園には子供が少なかったが、ここへきて、爆発的に混み合う。親も子も限界なのだろう。わが家は日中の公園遊びは自粛し、週3回ほど夜の公園に連れていくことにする。子供たち大喜び。「今日は夜、公園行ける?」が定番に。親たちはホットコーヒーとチョコレートを買って、ベンチで寛ぐ。夜の7時半から8時半の、ほんの1時間くらいだけれども、心が安らぐ。

2020年3月下旬。
 夜の公園が混みだしてきた。皆考えることは同じなのだろうか。ランニングしたり散歩する大人が増えてきた。日中は屋外での風景撮影の仕事を進めていく。カーシェアを利用しているため、まずはアルコールで車内を徹底的に除菌してから、幼馴染の子も一緒に乗せて、食事も車中で済ませることにする。
 公園でたくさん遊ばせながらも、だんだんと私の撮影業務の後ろを付いてくるようになる子供たち。ふと見れば、息子は自分のiPadやアクションカメラなどで撮影をしている(機材が私より充実している…このお話はまたどこかで書きたい)。幼馴染の子とは、なにやら映画のようなものまで撮影しては楽しんでいるではないか。知らぬ間に、夫が教えたiMovieで動画編集までしている。面白くて、胸が熱くなる。

そして、2020年4月上旬。
 マスクが政府から2枚ずつ各家庭に届けられるというニュースが出る。撮影に同行中の子供たちにこの事を伝えると、息子は「まぁ、ないよりはマシか。でも、マスクを配るってことは、外出してもいいってことになるよな……」と言い、幼馴染の子は「それでどれだけの費用がかかるんやろな。高くつきそう……」などと後部座席で話していた。あまりにも大人びた内容と、外出自粛を1ヶ月以上続けて、毎日毎日検温して、手洗いうがい、消毒しまくり、手作りの布マスクを付けた10歳の子供たちの姿に、何だか泣きたくなってきたのだった。

 4月3日、日本の感染者数が2,541人*に。さらなる休校延長の通達。実に50日間となる。これを機に、仕事場のスタッフも1ヶ月間のリモートワークへと移行し、自分の撮影業務もしばらくストップへと調整。感染拡大へのケアを強めた。この状況下では絶対それで良かったと思っているのだけど、夏休みよりも長い期間、人との隔離生活が続くのかと思うと、心と身体の健康維持への不安は募る。マスクはいまだに手に入らない。

 苦しい選択ばかりだが、これもクリエイティブに考え、試行錯誤していくしかないのだろうな。あの日、戦争の話をするおばあちゃんに、その時、家の中でどんな事をしていたのか聞いておいたら良かった。

 わが家は今、家の中。

 四六時中、家族で居て、ご飯作って、映画見て、YouTube見て、ニュース見て、本読んで、ゲームして、音楽聴いて、仕事や勉強して、時々公園行って、時々買い出しに行って、風呂入って、寝てる。

 4月4日、今日。大阪の桜が満開になった。



4月4日、今日。大阪の桜が満開になった


*参考サイト
朝日新聞デジタル「新型コロナウィルス感染者数の推移」
https://www.asahi.com/special/corona/

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