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平尾 剛

平尾 剛/スポーツ教育学者

元日本代表ラガーマンが書き下ろす「スポーツは、だから面白いし飽きない」。 読めばもっと身体を動かしたくなる、面白いゲームが観たくなること必至。

第6回 ヤマハの台頭

 2月末に行なわれた第52回日本ラグビーフットボール選手権大会の決勝戦をもって、2014-15シーズンは幕を閉じた。ラグビーシーズンは秋口から始まり、半年にわたって熱き戦いが繰り広げられる。秋から冬にかけて寒さが深まるのとは対照的にグラウンドでの熱量はだんだん上がっていく。
 シーズン最終戦に駒を進めたのはヤマハ発動機ジュビロとサントリーサンゴリアス、そして勝利を収めたのはなんとヤマハであった。
 ラグビーでヤマハ? サッカーじゃなくて?
 そう思われた方がいるかもしれない。僕だって驚いた。関係者には失礼ながら、まさかヤマハが優勝するとは思ってもみなかったからだ。ファンの中でもヤマハの優勝を予想した人は少なかったと思われる。

 ここ十数年の国内リーグを振り返ってみると、主に3チームで争ってきたといっても過言ではない。パナソニックワイルドナイツ(元三洋電機)、東芝ブレイブルーパス、サントリーの3チームが優勝を分け合ってきた。そこに神戸製鋼コベルコスティーラーズ、トヨタ自動車ベルブリッツ、NECグリーンロケッツなどその年に好調なチームが追随する。おおよそこのような力関係で展開してきたのがここ十数年である。
 この「3強+α」の図式を書き換えたのが今年のヤマハだった。「α」に属するチームの中でもとくに下位に見積もっていたヤマハの優勝に、自身の見る目の衰えを感じたのは否めないところである。いや、自分を責めるのはやめよう。僕の見えぬところで着実に実力をつけていたヤマハに賞賛の拍手を送ろう。

 それにしてもいつから強くなったのか。
 昨年12月に行なわれた神戸製鋼との試合では40点差をつけられての敗戦を喫している。この時点でヤマハの優勝を予想することなど不可能だった(逆にこの試合で神戸製鋼には大いなる期待を抱いた。あえなく空振りに終わったが)。   
 だが、翌年1月のトップリーグプレーオフトーナメントでは、同じ神戸製鋼相手になんと40点差をつけて快勝する。番狂わせが少ないとされるラグビーでは到底考えられない大逆転劇。社会人レベルの試合で40点差をダブルスコアでひっくり返すというのは、いまだかつて見たことも聞いたこともない。しかもその間、1ヵ月である。
 ここで気がつくべきだった。ヤマハは覚醒したのだ。

 強固なスクラムとモール、安定したラインアウト、乱れない組織ディフェンスと正確なタックルが勝因。試合翌日の新聞各紙はそう書き立てたが、おそらくそれだけが原因ではないだろう。技術を支える精神的ななにかが目覚めたに違いない。そうでなければ「40点差の倍返し」をうまく説明することが僕にはできない。ありきたりの表現でしか語れないのが悔しいが、ようするにチームとしての「自信の回復」がそれをもたらしたのだ。
 それにしてもいかにしてチームに自信を取り戻させるのだろうか。監督として早稲田大学、サントリーと渡り歩き、そのすべてで優勝を経験した清宮克幸監督の手腕はさすがである。
 その後の決勝ではパナソニックに敗れたものの、「トップリーグ」では下馬評を大きく覆しての堂々たる準優勝を収め、続く「日本選手権」では冒頭で述べた通り創部初の日本一に輝くに至った。

 ここで国内リーグの仕組みについて説明しておこう。「トップリーグ」と「日本選手権」の違いを理解していなければ、ここまでの内容を理解するのはいささか困難であると思われるからだ。
「トップリーグ」とは社会人チームのみで争われる大会だ。全16チームが総当たりのリーグ戦を行ない、成績上位4チームのプレーオフトーナメントを勝ち上がれば優勝となる。9月のシーズンインとともにリーグ戦が始まり、1月末に行なわれるプレーオフトーナメントまでの4ヶ月にわたって計17試合を戦う(日本代表チームの活動に合わせて途中1ヵ月の休止期間がある。この期間を「ウインドウマンス」と呼ぶ)。

 対する「日本選手権」は大学チームと社会人チームが参加して争う大会である。大学選手権ベスト4とトップリーグ上位6チームが一発勝負のトーナメント戦で覇を競う。ただ、最近の傾向では大学生と社会人では実力差が歴然としているために大学チームはすべて1回戦で姿を消す(ちなみに今年は違った。大学選手権6連覇中の帝京大学がNECを破って9年ぶりに1回戦を突破したのだ。快挙である)。したがって、現実的にはトップリーグの再戦となるケースが多い。トップリーグで敗戦したチームのリベンジ大会と捉える向きもある。
「トップリーグ」と「日本選手権」のどちらに重きをおくかは言わずもがなだろう。4ヵ月にわたり17試合をした上で優勝を決める「トップリーグ」に、当然ながら選手やチームはプライオリティをおく。トップリーグの優勝チームこそが真の王者だという意識は今でもまだ僕の中にある。だから今年はこちらを制したパナソニックに一日の長があると思っている。

 誤解しないで欲しいのだが、ヤマハの優勝に水を差すつもりではない。そうではなくて、国内リーグの仕組みを知ることでよりラグビーに親しんでもらいたいだけである。戦績を冷静に分析するとヤマハはトップリーグでも準優勝を収めているわけで、これを鑑みれば日本選手権優勝がフロックではないことがわかる。あの「40点差の倍返し」を機にシーズン後半からチームの完成度が一気に高まったと考えられるわけで、それを思えば今年は「ヤマハの年」だったと言える。 
 とはいっても今シーズンのチャンピオンはやはりパナソニックだ。試合内容からみても、もっとも強かったのはパナソニックだと僕は思う。
 そして、シーズンを通しての大きな大きなトピックとして、ヤマハの台頭がある。例年になく混戦模様のリーグ戦を抜け出しての準優勝には大きな価値がある。長らく続いた「3強+α」の構図を書き換えた主役は間違いなくヤマハであった。

 ヤマハという新興チームが頂点に駆け上がった今シーズンを経て、来シーズンはどのような展開を見せるのか、今からとても楽しみだ。一OBとしては古巣である神戸製鋼の復活を今か今かと待ち詫びている。
「古豪復活」の年になればよいのだけれど。

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