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仲野 徹

仲野 徹/大阪大学大学院医学系研究科教授

大阪が生んだ「世界一おもろい生命科学者」が、みんな知ってるようで意外に知らない「カラダと健康」についてフレンドリーな語り口で明らかにしていきます。

第13回 酒飲みの極意

 悪酔いや二日酔いするほどに飲まなかったらええ、と、わかっていても飲んでしまうのが酒飲みである。
 久里浜アルコール症センターの研究によると、肝臓におけるアルコール代謝能力は、体重60~70キロの人で1時間当たり約5~9グラムとされている。ほんまですか? そんなちょっとしか代謝されないんですか? と言いたくなるくらい少ない量だ。

 アルコール20グラムを1単位のアルコールといい、おおよそ、ビールなら中瓶1本、日本酒なら1合、ワインならボトル4分の1に相当する。計算すると、8時間かかっても、2単位から4単位しか代謝されないのだ。
 う~ん、これだと、飲めばいつも飲み過ぎになるのも無理はない。

 が、悪酔いや二日酔いはできれば避けたい。その極意についてお教えしましょう。
 というようなことができたら苦労はしない。が、今回はこのことについて考えてみたい。最初に言い訳しときますが、あくまでも個人的な経験に、ちょっとした医学的解釈をふりかけた程度のものでありますんで、そこのところご理解のほどよろしくお願いいたしまする。



 大学では、病理学、どのようにして病気がおこるのか、を教えている。難しいように思われるかもしれないが、そこで使われるロジックというのは、意外なほど簡単である。

 たとえば、あるモノを摂取したらどうなるかを考えてみよう。まず、その物質が消化管から吸収される。吸収された後、血液の流れにのって、どこかの臓器で代謝される、あるいは、尿などから排出される。それだけのことである。

 その物質が、からだに何らかの悪さをする、広い意味での「毒」である場合、口にしてしまった時、いかにして、その毒性を抑えることができるのかが問題になる。
 第一段階としては、吸収を抑えてやる、次には、代謝をあげて分解してやる、そして、排出を促してやる、ということになる。このように、たった三つに集約することができるのである。きわめてシンプルだ。と、ここまでが序論。
 で、いよいよ本論。アルコールの場合、いかなる対処法が可能でありましょうか。



 まずは第一段階の「吸収」について。
 物質によって、消化管のどの部位において吸収されるかが決まっている。アルコールは、炭水化物のように酵素で分解などされることなく、胃や小腸の上部からアルコールのままで吸収される。
 アミノ酸やブドウ糖のような物質は、トランスポーター(輸送体)というタンパク質が細胞の表面にあって、それを介して取り込まれる。
 しかし、アルコールにはそのようなものはなくて、単純拡散、すなわち、濃度の高い方から低い方へと流れるがごとく吸収される。

 空きっ腹にお酒を飲むと酔いが早く回る、というのは、これで説明できる。胃の中にアルコール以外のなにかがはいっていたら吸収が遅くなり、なにもなかったらアルコールの濃度が高くなって、吸収されやすくなるのだ。
 これを避けるためには、まず何かを胃に入れてからアルコールを飲めばいい。
簡単なことだ。私は嫌いだから決して飲まないが、牛乳がよいという話はよく聞く。胃粘膜に層を作って吸収が抑えられるとされているが、どうやらその説はウソらしい。他にも、緑茶に含まれるカテキンがアルコールの吸収を抑えるという説もあるらしいが、どうなんだろう。

 胃の中のアルコール濃度だけを考えると、なんでもええから、胃にモノをいれればよいということになる。が、牛乳やお茶でおなかをちゃぽちゃぽいわせてお酒を飲むというのは、なんともさえんことですわなぁ。
 まぁ、ともあれ、飲む前にまず何かを胃に入れることだ。チーズがいいとよくいわれる。これも、胃粘膜の保護作用があるというよりも、単にチーズの消化吸収が遅いのがメリットらしい。
 いわゆる腹持ちのいい食べ物は、胃の中に長くとどまってくれるので、アルコールの吸収が長く抑えられるということだろう。



 お次は代謝。いかにして肝臓におけるアルコールの代謝をあげてやるか、である。悪酔いを抑えるとか二日酔いの防止を謳うサプリメントなどがたくさん売られているが、その多くはこのカテゴリーに入りそうだ。

 テレビでよく宣伝されているし、相当なマーケット規模があるのだろう。かくいう私も、この手のものには、常日頃からよくお世話になっておりまして、少なくとも、主観的にはかなり効果があるような気がしております。では、その種類はというと、おおまかに二つに分類できそうだ。

 ひとつは、ご存じウコン系。飲み物やら錠剤やらパウダーやら、いろんなものが、いくつものメーカーから発売されている。その主成分はクルクミン。別名がターメリック、カレーにも含まれてるやつだ。
 クルクミンが肝臓の働きをよくする、そして、経験的にアルコールの悪い影響をなくす、ということはわかっているけれど、実際にどんなメカニズムで効いているはよくわかってないらしい。ちょっと意外だ。

 ふたつめはアミノ酸系。ウコン系が苦くてやや飲みにくいのに比べると、こちらは味付けがよろしくて飲みやすい。アミノ酸を混合したものだけでなく、肝臓水解物、しじみエキス、牡蠣エキス、とかも、それぞれ成分に特徴があるけれど、おおむねアミノ酸系と考えていいだろう。
 
 こういったサプリメントにも、肝臓の働きを上げる、といった漠然とした書き方がされているだけで、アルコールそのものの代謝にどの程度関係しているのか、というのはいまひとつわからない。勝てば官軍、効けばメカニズムはなんでもよろし、というところだろうか。理屈はわからんようやけど、まぁ、ウコンもこれも常用してるから、まけといたる。

 アルコールが分解されて生じる二日酔いの原因物質・アセトアルデヒドの代謝については一応の説明ができそうだ。
 ちょっと込み入った話になるが、アルコールが代謝される時、NADHという物質が増加する。NADHが過剰にあると脂肪の代謝を悪化させ、脂肪肝の原因にもなる困りものだ。しかし、アラニンやグルタミンといったアミノ酸は、NADHをNADに変換させるのを手伝ってくれる。そして、そうやって増えたNADはアルデヒドの分解を促進するのである。

 じつは、アルコールそのものの代謝をよくするために確実な方法が一つ知られている。それは、アルコールの摂取だ。肝臓において、先に書いたようにアルコールはアルデヒドに代謝されるのであるが、そのために、アルコール脱水素酵素、カタラーゼ系とMEOS系という三つの代謝経路が備わっている。

 アルコール脱水素酵素の経路がいちばん強力なのであるが、残念ながら、それを強めることはできない。しかし、カタラーゼ系とMEOS系は、一生懸命にアルコールを飲み続けると誘導されて、うまくいくと、アルコール脱水素酵素と同じくらいの活躍をしてくれるようになる。

 念のために言っておきますが、二日酔いで迎え酒をしても、アルコールの代謝は急にあがったりはしません。もっと長期間にわたって、まじめに飲み続けないとあかんのであります。あたりまえだが、この方法はあまりオススメできない。単に、肝臓に負担を強いているだけなのだから。

 それに、である。そもそも、二日酔いや悪酔いに打ち勝つためにアルコールを飲むというのは、どう考えても本末転倒だろう。また、MEOS系の酵素は、薬物の代謝にも関係しているので、アルコールを摂取しすぎて誘導がかかりすぎると、ある種のお薬が効きにくくなったり効き過ぎたりするというデメリットもある。



 三つ目は排出。摂取されたアルコールの一部は、汗、尿、呼気などから直接出て行く。が、その量は、たかだか摂取量の10%以下とされている。
 あまり褒められたことではないが、スキーや登山の途中でビールを飲むことがある。そんな時にほとんど酔った気がしないのは、すぐに汗から出て行くせいからだろう。しかし、ふつうにお酒を飲む状況で、そんなに汗をかくような運動などできはしない。

 ついでにいうと、漢方薬である五苓散(ごれいさん)は二日酔いに効くとされている。体の中の水の分布をただすことによって、悪心、嘔吐、頭痛といった悪酔いや二日酔いの症状をすべてやわらげてくれるからだ。確かに、このお薬も、経験的にはよく効くような気がしている。

 サプリやお薬にたよってまでお酒を飲むなと言われたらそれまでだ。しかし、時には本気飲みをせなければならぬこともある。そのような時には、ウコン系とアミノ酸系を併用している。プラセボ(偽物の薬)効果かなぁという思うふしもないではないが、経験的には効いているような気がしている。

 ちなみに、いろいろな種類のお酒をちゃんぽんで飲むと酔いやすい、と言われているが、これも迷信みたいなものだ。どれだけ酔うかは、単にアルコールの量に依存するのである。あれやこれや飲んでいると、飲んだ量がわからなくなって、つい飲み過ぎてしまう、というだけのことだ。

 最後に、もう一度、あるモノの摂取に立ち返ってみよう。吸収量を少なくする簡便かつ完璧な方法があることに気づかれないだろうか。小学生でもわかる。摂取量を減らせばいいのである。
 ま、それができたら苦労などせんし、こんな文章を書くこともないっちゅうことなんですけど。

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