住ムフムラボ住ムフムラボ

仲野 徹

仲野 徹/大阪大学大学院医学系研究科教授

大阪が生んだ「世界一おもろい生命科学者」が、みんな知ってるようで意外に知らない「カラダと健康」についてフレンドリーな語り口で明らかにしていきます。

第8回 ダイエット「入門」の達人:完結編

 前回、前々回と「ダイエット『入門』の達人」で考察してきたように、ダイエットの成功には食べる量を減らすしかない。結局のところ、その意識をどれだけ保てるか、そして、それを実行できるか、ということに尽きるのである。そのためにとたどりついた方法は簡単なことであった。

 食べる時に、「あ、ダイエット中なんや」と思い出せて、食べる量を控えればいいのだ。そんなことあたりまえやんか、と思われるかもしれない。が、ほんとにそれだけのことなのである。ダイエットを始めても、なかなか習慣化できず、ついそのことを忘れてしまって、まっいいか状態になってしまうことが多い。長年「ダイエット『入門』の達人」であった私がいうのだから間違いない。

 では、どうするか。お箸であろうが、フォークとナイフであろうが、手づかみであろうが、右利きならば、食べるとき、かならず右手の親指が目に入る。そこにダイエットを思い出させるようなマークをつければ、「爪に印が、ダイエットであったか」、と、山頭火の「石に腰を、墓であったか」みたいに気づけるはずだ。

 はて、どんな印にしようかと思案していて、大好きな大木こだま師匠の往年のギャグ「チッチキチー」を思い出した。「そら、チッチキチーやでぇ」というあれである。と言われても知らん人にはなんのこっちゃわからんだろうが、たいした意味もなく、親指をつきだして、そう言うだけ。しかし、使い方によってはバカ受けするギャグである。その時、師匠の親指の腹側には“チ”と大きく書いてある。かつては、その“チ”シールが売られていたほどだ。

 “チ”と書こうかと思ったけれど、指の腹側と背側で逆。そうだ「チッチキチー」の裏をとって「キッキチキー」ダイエットと命名しよう! が、口にだしてみたらわかるが、「キッキチキー」というのは、むちゃくちゃに発音しにくい。で、ちょっと入れかえて「きっちきちーダイエット」と命名。そのうち、きちきちの服が着られるようにとの願いもこめて。もちろん爪には“キ”と書くことに。

 すこしやってみたら、案外と効果がある。何かを食べる時に必ず目にはいるので、けっこうな抑止力になる。コンビニとかで、虫養いにちょと何かを買ってみようかというような時にも、“キ”が目に入ると、「そやそや、ダイエット中や。買うのやめとこ」と思ったりする。親指の“キ”を見て、手に取ったお菓子を棚に戻すおやじ。怪しい…。

 思い出せればいいのであるから、“キ”でなくとも、シールをはってもいいし、女の人ならネールアートでもいい。特に名を秘す某友人の妻君は“ぶた”と書いたらしいけれど、まぁ、そこまですることはなかろう。それって、他人に見られたら、かっこ悪すぎるし。

 あくまでも、これは、自制心にたよったダイエット法である。はたして、どれくらいの人に効き目があるかを確かめてみたくなった。フェイスブックで、ダイエット仲間を募ったところ、13人が名乗りをあげてくれた。私を含めて計14名、女9、男5の内訳。年齢は30代から50代、標準体重程度だけどもう少しスリムになりたいという人から20キロ超の人までさまざまである。

 とにかく、かくして、「きっちきち~ダイエット隊」が発足した。フェイスブックに「きっちきち~ダイエット」グループを作って、適宜、状況を報告しあうことに。「○キロ減りました!」という美しい報告もあれば、「食べ過ぎて反省」を繰り返すばかりの人もいる。

 とりあえずのお試し期間とした3ヶ月が過ぎた。個人差があるとはいうものの、結果はおおよそ満足、といっていいだろう。14人の体重減少の平均値は3.8キロ。1ヶ月目での平均値は2キロだったので、いいペースである。もう少し減るかと思ったけれど、最初から減量目標が2~3キロの人が何名かいたので、まぁ、こんなもんだろう。

 減り方にはかなりの幅があった。いちばん減ったのはアメリカ帰りのチャーリー。アメ食から和食に切り替わったこともあるのだろうが、堂々の12.5キロ減。急激に減りすぎではないかと思うが、本人によると体調はすこぶるよく、生命保険の掛け金も減ったとかで万々歳。

 二位は8.8キロのコータローくん。こちらも、ズボンがゆるくなった以外、いいことばかりのようだ。次いで8キロの正和くん。かくいう私は四位で、5キロ減量を目標にあげての4.7キロ減。ベルトの穴を一つ縮めるところまでいった。これ以上減ると、ズボンがあわなくなる、見かけが貧相になる、という理由から、嫁ストップがかかっている。

 ついで、3キロ台が2名、2キロ台が四名、1キロ台が三名、であった。逆に、ダメダメだったのは、新婚女。0.6キロのゲイン。会った時、おもいっきり爪に“キ”と書いてあったはずやけど、あれはいったいなんやったんや…。まぁ、3ヶ月の間に結婚と新婚旅行があったから、祝儀としてまけといたる。

 総じて男性の方が大きく減量できた。これは性差というより、もともと肥満度が高めの人が多かったせいだろうと解釈している。男性5名のうち最下位だった「のせぞう」君は、フェイスブックでの報告を見る限り、連日連夜の暴飲暴食であるが、それでも、3キロも減ったのは驚くべきだ。

 苦もなく、かなり楽に痩せられた。こういうのは、とりあえず始めることがまず大事で、あとは習慣化されていく。実際には、2~3週間もすると、なにも書かなくても、右手の親指を見ただけで、パブロフの犬みたいに、あぁダイエット、と思い出せるようになる。2ヶ月もたったころには、体がダイエット状態に慣れるのか、意識せずとも、あまり量をたべたくなくなってくる。

 一方で、美味しいモノを食べた時の満足感はぐんぐんあがっていった。さらに、これまで何度試みてもできなかったのであるが、ひとくちで食べる量がすくなく、そして、よく噛んでゆっくり食べるようになっていった。痩せるためにゆっくり食べましょう、とよく言われるが、あれは、ゆっくり食べられるようになったら痩せますよ、の方が正しいのかもしれない。

 結論としては、「きっちきちぃ~」を始める小さな勇気と、自制心がちょっとだけあれば、ダイエットは十分に可能である、ということだ。さしたる我慢は不要。それに、体重が減りだしてくると、なんとなくそれが快感になって、無意識にダイエットを続けようと思うようになってくる。

 ただし、“キ”で意識を高めることだけが効果をうんだのかどうかはわからない。メンバーの中には、きっちきち~ダイエットと同時に毎日の体重測定を始めた人がいる。体重記録だけである程度の減量効果があるのは、前回のコラムに書いたとおりだ。

 もうひとつは、フェイスブックでのグループダイエットが効果をあげたという可能性だ。「フェイスブック、ダイエット、グループ」でググるといっぱいひっかかってくるから、けっこう一般的なのだろう。個人でダイエットに取り組むよりも、グループの方が効果的だという研究もある。

 毎日何回も書き込む人から、ほとんど書き込まない人までさまざまであったが、これだけがんばってこれだけ減りました、というようなお利口コメントは不人気。他人の成功はおもろないのである。逆に、こんなに食べてしまいました、とかが写真付きでアップされたりしたら大人気。

 わぁ~、この人、こんなことしたはるわぁ、情けなぁ~。とか思いながら、わたしはがんばるもんね、というのが、精神的にいいのだろう。ちなみに、グループのメンバーお互いは、ほとんどが見知らぬ人なのだが、3ヶ月のうちに強烈な仲間意識が芽生え、じつに仲良くなっていて、先日、大宴会を催した際も、えらく盛り上がった。

 実り多いとはいえ、最初の3ヶ月がすぎたところである。先はまだまだ長い。目標に到達していないどころか体重を増やしてしまったダメダメ新婚女などは、よほど精進を続けてもらわなければならない。というより、そろそろダイエットを真剣に始めてもらわなければならない。そして、目標に達した優等生たちも、リバウンドを避けなければならない。

「体重が減っていく」という快感がなくなるのであるから、モチベーションの保ち方がやや難しいように感じている。そのために鍛えなければならないのはメンタルである。これにも、おそらくフェイスブックグループは役にたつだろう。「ちょっと最近太り気味」とか書いたら、きっと、「せっかくここまで来たんやから、がんばりましょう」とか、励ましてくれるだろうと期待している。

 ダイエットを断行する上で抵抗感が強いのが「食べ物を残す」ということだ。ほとんどの人がそうだと思うが、子どものころから、残してはダメというしつけをうけているので、かなりの罪悪感がある。世界のどこかで飢えている子どもがいるのに、残していいのか、という気持ちがわく。

 しかし、である。レコーディングダイエット(日々摂取する食物とそのカロリーを記録することでそれを自覚し、食生活の改善につなげる)で岡田斗司夫さんも書いておられたが、残さず食べたところで、飢えている子どもには何ら影響がないのである。ここは思い切って残して痩せて、健康に生きて、医療費を削減して、それをいずれ寄付しよう、というように、建設的に気持ちを切り替えてみるといい。

 がまんしすぎない、ということがダイエットの秘訣だ。食べたいものは食べる。ただし、残すことを気にせず、量を少ない目にする。でないと、がまんしすぎた反動が生じて、バカ食いして元の木阿弥になってしまう。これも、ダイエット入門の達人が、自らの経験からいうのであるからまちがいない。

 食べる量を減らすと、最初のうちは、どうしても空腹感を感じやすくなる。この軽い空腹感というのは、10分と続かない、と、ものの本には書いてある。がまんしてやりすごせればいいのだが、意外とつらい。そういうときは、アメをなめることにした。

 幸いなことに、普通のアメよりカロリーが半分くらいのシュガーフリーアメや、なかには、カロリーゼロのアメまで売られている。こういったものを5~10分かけて嘗めると、空腹感はほとんどなくなる。こういった「小技」も、自分にあったものが次第に見つかってくる。ちょっとした工夫をしていく、というのも、なかなかに楽しいものである。

「ダイエット『入門』の達人」は、これにて卒業。ダイエットの王道を身につけることができた、と思っている。基本的には自制心にたよったダイエットであるから、誰でもができるものではないだろう。しかし、きっかけと仲間さえあれば、楽しくダイエットをして体重を減らすことができる可能性は十分にある。

 どないです? ちょっとでも興味があったら、ぜひ始めてみてください。お金はまったくかかりませんから、たとえうまくいかんかっても、あかんかったなぁ、あのおっさんの書いてとったことウソやんか、と笑いとばせばええだけです。



<追記> この予稿を見せたダメダメ新婚女から、速攻でフェイスブックに書き込みが。「『きっちきち~』やのに『ちっちきちー』やと思って、爪に“チ”って書いてたんですよね。それが痩せへん原因なのでは? 書き直したらみるみる痩せることうけあい!」って、ちゃうやろっ! 先が思いやられます…

コラムニストから選ぶ

PAGETOPへ