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仲野 徹

仲野 徹/大阪大学大学院医学系研究科教授

大阪が生んだ「世界一おもろい生命科学者」が、みんな知ってるようで意外に知らない「カラダと健康」についてフレンドリーな語り口で明らかにしていきます。

第7回 ダイエット「入門」の達人:その2

 さて予告のとおり、今回はこれまでに「入門」したダイエット法の数々を紹介する。最初に申し上げておきますが、ここに書く経験談はあくまでも個人の感想であって、医学的・科学的な根拠があるわけではございません。ましてや、私が所属する大阪大学医学部や生命機能研究科を代表する意見でもございません。まちがえても勘違いしないでくださいね。

 じつは、ひとつだけ、長い年月続いているダイエット法がある。毎朝、体重をつける、というやつだ。もう6~7年もやっているので、どの程度の効果があるのかはわからなくなってしまっている。しかし、一定以上に体重が増えることを抑制するには、絶対効果的だ。もちろん最低限の自制心がなければどうしようもないけれど。

 これには手書きのグラフがいい。コンピューターへの数値の入力だと、反省や喜びがないのである。手書きだと、グラフを書きながら、あっちゃぁ~食べ過ぎたぁ、とか、よっしゃぁ~減ってきたぁ、とかいう喜怒哀楽を感じることができる。感情に基づいたダイエット意識の向上が「体重記録ダイエット」のキモだと思っている。最初に買ったA4のグラフ用紙がまだ残っているくらいだから、経費もじつに少なくてすむ。


 さて、経験したダイエットをいくつかのカテゴリーに分けて書いていこう。まずは、カロリーのない、あるいは、低いものでお腹を膨らせる系、いわば「低カロリー満腹ダイエット」である。いちばんいいのは、かさが高くてカロリーゼロの寒天。水でふやかした乾燥寒天をサラダにいれて食べる、あるいは、煮立ててトマトジュースをいれて固めたトマト寒天を食事前に食べる。

 たしかにある程度お腹がふくれるので、その後で食べ物を食べる量は減る。が、いかんせん、あまり美味しくないのである。サラダに寒天をいれると、寒天を飲み込むためにドレッシングをいっぱいかけてカロリーが増えて、何してんだかわかんない状態になったりする。トマト寒天は、何ヶ月か食べ続けたが、作るのがじゃまくさいし、食事の前のトマト寒天というのがわびしくなってやめた。

 バジルの種でふくらせる、というのもある。なんでも、バジルの種はむちゃくちゃに水を吸うので、ちょっとだけ食べて水を飲んだら、空腹感がなくなるというのだ。が、個人差があるのだろう。わたしには、その膨れる感じがようわからんかった。それに、胃の中でバジルの種がぶわっとなるのはどうも気持ちがよろしくない。芽が出たりしたらこわいし。

「同じ食べ物系」というのだろうか、ある食べ物を食べ続けるようなダイエットは基本的にやらないことにしている。が、一つだけ、しばらくの間やったことがある。豆乳・野菜ジュースダイエットだ。これは、朝食を豆乳と野菜ジュースだけにするというもの。

 そんなもんお腹がすくだろうが、と思われるかもしれないが、意外と腹持ちはいい。それに、少しずつではあるけれども、着実に痩せた。けどやめた。どうしてって? 飽きるのである。朝だけとはいえ、毎日同じものではたまらんのである。これは性格の問題だろうから、どうしようもない。


 で、つぎ。これは有名であるし、効果があるという人もたくさんいる。「炭水化物制限ダイエット」。ちょっとやってみたら、みるみるうちに体重が減った。ただ、なんか、体調がむちゃくちゃ悪くなったような気がしてやめた。やり方が悪かったのかもしれない。しかし、かなりの効き目があることは実証できた。

 前回書いたように、肥満にはカロリーではなくて炭水化物が重要であるという説もある。もしそうであるならば、糖質制限は理想的なダイエットである。が、基本的に、非常にかたよった栄養状態にするのであるから、堪えられる人とそうでない人がおるのではないかという気がしている。それに、大阪的こなもん好きには不可能である。


 以上で、食べ物系はおわり。ここからは「体改造系ダイエット」とでも呼ぶべきジャンルにはいっていく。トップバッターは、骨盤ダイエット。私的には、やらなかったらよかったダイエット、ぶっちぎりの一位である。やり始めてすぐに生まれて初めてのぎっくり腰になったのだ。直接の原因かどうかはわからんのであるが、なんらかの関係があったとにらんでいる。

 その上、骨盤ダイエットは、NHKの「ためしてガッテン!」で、効果なしと判定された。やっぱりやめときゃよかったと後悔した。ちなみに、この番組では、基礎代謝を100キロカロリーあげるには、筋肉を3.5キロ増やす必要があるとされていた。これは、インナーマッスルであろうがなんであろうが、筋肉をつけて基礎代謝を上げて痩せる、というのがいかに難しいかということを物語っている。

 で、そのマッスル系ダイエット。いちばん有名なのはロングブレスダイエットだろう。これもやってみた。多少は痩せた。が、あの程度の運動で筋肉がつくとはとても思えない。科学的な根拠があって言っているわけではない。あくまでもジムでの筋トレと比べた実感として、である。

 もうひとつ、同じ系統に、腹ペコダイエット、というのがある。食べずに腹をぺこぺこにして痩せる、というのではない。そら、そんなことしたら、まちがいなく痩せますわな。そうではなくて、「お腹を出し入れしながら歩く“腹凹歩き”」で痩せる、という、内科のお医者さんが薦めておられる方法である。

 これもやってみたら、ちょっとは痩せた。しかし、である。歩くときに、たとえ意識的とはいえお腹をぺこぺこさせたところで、たいして代謝が変わるとは思えないし、ましてや筋肉が増えるとも思えない。これとて科学的根拠で言っておる訳ではございませぬが。


 うってかわって、ここからは極めて論理的な考察をおこなっていく。読む方も、姿勢を正していただきたい。これらのダイエット経験をとおして、科学者として真剣に考えてみたのである。

 物理的におなかをふくらせる寒天ダイエットや、炭水化物制限ダイエットに効果があるのはわかる。一方、ここまで書いてきたように、体改造系は、どうも理屈に無理があるように思えてしかたがない。しかし、実際に、骨盤ダイエットやロングブレス、腹ペコで効果がある人もたくさんいるようだ。自分の例を考えても、ロングブレス、腹ペコは多少なりとも効果があった。

 いや、ダイエット入門の達人としてもっと正確にいうと、どんなダイエット法でも、始めてすぐは体重が減るのである。まぁ、それがダイエット入門を辞められない理由なのであるが、はて、なんででしょうか。

 間違いなく、気分とか意識の問題なのである。ダイエットを始める時というのは、理由はどうあれ、「痩せるぞ」という気分が高まっている。だから、新しい方法を始めると同時に、無意識のうちに食べる量を自己規制している可能性が高い。

 食餌制限関連以外のダイエット法にほんとうに効果があるかどうかは、ダイエット開始前後で食べる量がかわらない、という前提で調べる必要がある。が、これを実際におこなうには、非常に難しい。自らの生活を顧みてもらうとわかるだろうけれど、ほとんど不可能なことだ。

 誤解のないように言っておくが、けっして、これらの方法が悪いと言っているのではない。どのような理屈であっても、ダイエットというのは体重が減ればそれでいいのである。しかし、私のような根気に欠ける人はあかんけど、なぜ効果が続く人がいるのか、という疑問が残る。

 それは、ダイエットをやっているぞ、という意識の問題が大きいのではないかと考えている。体改造系ダイエットでは、骨盤ダイエットは朝晩2回、ロングブレスは一日3~5回、腹ペコは歩くたびに、ダイエットのことを思い浮かべることになる。書いてみれば、ごく簡単にできるように思えるだろう。しかし、実際に日常生活にとりこんでみるとわかるが、一日中ダイエットをしているような気分になる。

 体を改造することではなくて、体を改造するためにこれらのことをおこなうことにより、ダイエットしてますねん感を四六時中維持すること。そう、それこそが、これら体改造系ダイエットが効果を発揮するキモであると鋭く看破したのである。

 成功したダイエット法、という記事が、朝日新聞に載っていた(平成26年4月26日)。一位がウォーキング、二位が体重・食事の記録、三位が炭水化物制限であった。一位と三位はごもっともである。では、どうして体重や食事を記録するだけでダイエットに成功するのだろう。これも、そういうことを記録することによって、ダイエットやってるけんね感を維持できるからだと考えると理解できる。

 科学というのは、データから結論を導くだけではダメである。導かれた結論から合理的な推論をおこない、その推論が正しいかどうかを検証することにより、さらに、その結論を強固なものにしていく。それこそが科学という営みなのである。

 私の結論は、ダイエットしていることを常に意識していると、ダイエットに成功する、というものである。もっと細かくいうと、四六時中でなくともいい。飲み食いしている時にダイエットをしている意識が沸いて、食べる量をちょっとガマンする。それさえできれば、必ずや痩せるはずなのだ。


 ということで、食事中に、ごく簡単に「わたしダイエットしてるんだった」ということを思い起こさせる方法を考案した。それは、と、書きたいところであるが、安物のテレビドラマのように、次回にまわすことにする。おどろくほど簡単な方法なので、すこし考えてもらったらわかるかもしれない。

 ふん、学者は理屈ばっかりこねくり回すからな、と思われているかもしれない。そのような謗りを払拭するため、その方法を試すことにした。しかし、自分だけではダメである。あるダイエット法を考案した人は、このダイエット法でやせるはずという強い意識があるので、そのダイエット法がかなり効果を発揮してしまうにちがいないのだから。

 ダイエットを希望する友人たちに声をかけ、その方法、名付けて「きっちきちぃダイエット」を試してもらった。うちわけは、女性9名、男性5名(わたしも含む)の計14名。一ヶ月経過した時点での成績は、平均で2~3キロ減。悪くはない。残念ながら、自制心のない3~4名が大きく足を引っ張っているが、最高では7~8キロ減った人もいる。

 さて、次回は、「ダイエット『入門』の達人」最終回。きっちきちぃダイエットの方法論(というほどたいそうなものではないけれど…)の公開と、三ヶ月たった時点での成果報告である。乞うご期待!!!

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