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仲野 徹

仲野 徹/大阪大学大学院医学系研究科教授

大阪が生んだ「世界一おもろい生命科学者」が、みんな知ってるようで意外に知らない「カラダと健康」についてフレンドリーな語り口で明らかにしていきます。

第25回 熱中症にご用心

 暑い。今年の夏は異常に暑い。言うてもしゃぁないとわかってても、つい、暑いと言うてしまうほど暑い。熱中症でお亡くなりになられた方のニュースもつづいている。

 いまさらですが、熱中症ってなんでしょう? 熱射病と同じ? ちがう? そういえば、熱射病とむっちゃ似たことばに日射病もあります。なにがちがうん? 今回はそこらあたりのお話をしていきます。

 大学で病理学総論をおしえています。もちろん熱中症も出てきます。どんなところに出てくるかというと「環境による疾患」の中の「物理的要因による疾患」のひとつです。そこには、放射線、電気、機械的な外傷、とならんで、温度による疾患、という項目があります。

 温度による疾患は、熱傷=やけど、熱中症≒高体温、低体温にわけられています。熱中症による疾患がさらに分けられていて、軽症が熱失神と熱痙攣、中等症が熱疲労、そして重症が熱射病です。う~ん、熱なんちゃらいう名前ばっかりで、わかりにくいぞ。

 と、ぼやきながら調べていたら、日本救急医学会もそう思ったのか、熱中症を重症度から三つに分類しましょう、というガイドラインを平成27年(2015)に発表しています。
 軽い方から順にⅠ度~Ⅲ度で、Ⅰ度が熱失神と熱痙攣、Ⅱ度が熱疲労、Ⅲ度が従来からの熱中症に相当します。たしかにこの方が紛らわしくなくてよさげです。

Ⅰ度〜休んで「薄い塩水」補給すべし
 では、軽い方から順にいきましょう。まず、Ⅰ度の熱失神から。熱失神とは、暑いところにいて、立ちくらみとか目まいとか、生あくびが出続けるような状態をいいます。どうしてそんなことがおきるのでしょう。

 暑いところにいると体温が上がります。人間の体はよくできていて、それを下げようとします。といって、冷蔵庫みたいに積極的に冷却するメカニズムが備わっているわけではありません。どうするかというと、汗による気化熱で体温を下げます。汗をかくと脱水気味になって、血液の量が少なくなります。

 それから、皮膚にある血管を拡張させて、そこからも熱を逃がそうとします。そのために、血液が皮膚にたくさんまわされます。暑いときに皮膚が赤くなるのは、末梢の血管が拡張するためです。

 こういった状態になると、脳へ行く血流が不足して、ふらっとする。それが熱失神です。別名、熱虚脱と呼ばれることもあります。この程度であれば、通常、涼しいところで横になったりして休めば回復します。あと、スポーツドリンクや生理的食塩水による水分補給もしたいところです。もちろん、熱失神と思って休ませても回復しないようなら、お医者さんへ行く必要があります。

 熱失神と並んで、熱痙攣もⅠ度にはいっています。これは読んで字のごとく、暑い中で激しい運動などをした時に筋肉が強く痙攣する状態です。汗のかきすぎでナトリウムが失われ、電解質バランスが崩れることによって生じる、と考えられています。

 対症療法として、こむら返りの時みたいに筋肉をストレッチしたらおさまることがほとんどです。が、原因は電解質バランスの崩れですから、それを是正する必要があります。とういことで、スポーツドリンクあるいは生理的食塩水くらいの薄い塩水を飲んだらよろしい。

 ちなみに生理的食塩水というは、1リットルに食塩を9グラム溶かしたものです。最近ではペットボトルがどこにでもころがってるでしょうから、それを使うと、500ミリリットル強に小さじ一杯(約5グラム)程度の食塩を入れたらちょうどええ塩梅です。

 塩分を含まない水を大量に飲むと、水中毒-血液中のナトリウム濃度が下がって頭痛や嘔吐、重症になると意識障害-とかがおきる危険性があるので、注意が必要です。

Ⅱ度〜お医者さんに行きましょう
 おつぎ、Ⅱ度は熱疲労です。熱疲労というと、なんとなく語感的に大したことないような印象をうけますが、すでにお医者さんに行った方がいい状態です。暑さのために、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下をきたすような病態をいいます。呼吸が荒くなるとか、脈拍が速くなるといいった症状もでます。

 ありがちな症状ですし、炎天下などではなくて、室内でもおきる可能性もありますから、あれ? ひょっとしたら熱中症でこうなってるんやろうか、と疑うことが大事です。

 これは大量の発汗による脱水が原因です。脱水になると血液の量が減少します。それによる循環器系の虚脱が原因とされています。体温は上昇することもありますが、40℃を超えることはありません。原因が脱水で、からだの体温制御機構は保たれているのですから、水分と電解質を経口や点滴で補液すると、ふつうはもとどおりにもどります。

Ⅲ度〜40℃を超えた体温を下げるべし
 Ⅲ度の熱射病となると、かなり深刻な状態です。さきに書いたように、体温があがると、正常ならば、それを抑えるような体温調節機構が働きます。そのような代償機能が働かなくなってしまったのがⅢ度、熱射病です。ですから、体温がどんどん上昇して40℃を超えていきます。

 ここでいう体温は、直腸とか食道とかで計測する深部体温あるいは核心温度とよばれるものです。通常、体温は腋窩(えきか=わきの下)で測りますが、深部体温はそのような表面体温よりも0.5度くらい高めです。

 体温を下げるメカニズムが機能しないのですから、汗が出ないこともあります。高温・高湿度の状態で、高体温と、脳機能異常による意識障害、骨格筋の壊死や心筋梗塞、不整脈や腎臓の機能障害などさまざまな臓器の障害がひきおこされるのが熱射病です。体液バランスを正常化させるだけでなく、体温を急速に下げてやる必要があります。

 日射病と熱射病、一字違いですが、意味の違いはどうでしょう。広辞苑によると、熱射病は「熱中症の一種。高温や多湿な環境下で、体温調節機能が破綻した状態。高体温となり、意識障害・痙攣・臓器障害等を呈する。」とあります。おおむね正しそうです。

 一方、日射病は「夏季など強い直射日光に長時間照らされた際に起こる熱中症の一種。頭痛・めまい・倦怠・意識障害・痙攣けいれん等を呈する。熱射病と異なり、高体温にはならないことが多い。」とあります。これを読むと、日光によるⅡ度の熱中症=熱疲労に近い感じがします。

 しかし、一般的には、日射病という言葉は、重症度には関係なく、お日様のせいで熱中症をきたすものを意味することがおおいようです。熱射病は医学用語であるのに対して、日射病は一般的な用語、と考えるのが妥当なような気がします。

体温計はなぜ「42℃」まで?
 いまはもうすっかり見ることがなくなりましたが、水銀体温計は42℃までしか目盛りがありませんでした。電子体温計だと何度まで計測できるかがわかりにくいのですが、説明書を見ると、やはり42℃までになっています。これは、42℃を超えると、死ぬ可能性が80%以上ともいわれるほど高くなるので、それ以上の体温がわかったところでしかたがないからです。

 我々の体の機能の多くは、タンパク質が担っています。タンパク質というのは、アミノ酸がつながってできた物質ですが、それぞれが三次元的なかたちをもっています。そして、タンパク質の機能はそのかたちに依存しています、言い換えると、タンパク質の立体構造がその機能の源なのです。

 その構造は、温度が上がると崩れてしまいます。熱による変性が生じる、という言い方をします。そうなると、タンパク質は機能できなくなります。また、構造がおかしくなったタンパク質はどんどん壊されていきます。42℃を超えると、多くのタンパクが熱変性し始めますので、42℃を越えるのはきわめて危険な温度なのです。

 ですから、体温が42℃を超える、あるいは42℃近くになると、なにしろ、急いで体を冷やす必要があります。団扇であおぐ程度では、とてもおいつきません。これについては、あとでもう少し詳しく書きましょう。

高温以上に怖い「高湿度」
 明日の気温は38℃です、とかいう天気予報を見て、うわっ暑そう、とかうんざりします。気温というのは気象庁によって決められていて、地上から1.5メートル、日の当たらない風通しのいい場所で測定されたものです。そのための百葉箱、昔はどの小学校にもありましたが、いまはどうなんでしょう。

 じつは、熱中症を考えるときは、気温ではなくて、暑さ指数(WBGT=Wet Bulb Globe Temperature)がもっと大事です。暑さ指数の本名は「湿球黒球温度」といって、気温と湿度と輻射熱(地面や建物、体から出る熱)から計算できます。

 気温と湿球温度と輻射熱の割合が、屋内では1:7:2、屋外では0:7:3で計算されます。聞き慣れないことばですが、湿球温度というのは、湿ったガーゼで温度計の球部(赤く色づけられたアルコールが貯まってるところ)をくるんだ温度計で測った温度です。気化熱が奪われますから、むきだしで測定する乾球温度の値よりも低くなります。が、湿度があがればあがるほど湿球温度は高くなり、飽和水蒸気圧では乾球温度と同じになります。

 湿球温度の割合が7ですから、暑さ指数では湿度が非常に重視されていることがわかります。湿度が高いとなかなか汗をかきません。そうすると、体温が下がりにくくなってしまいます、だから、熱中症の指標としては湿球温度が大事なのです。

 ちなみに、WBGTは、もともと米軍が海兵隊の訓練中におきる熱中症予防のために考え出した指標だそうです。ネットで調べたら、5千円くらいでWBGT温度計が売られてますから、気になる人は買ってみられてはどうでしょう。

もしもⅢ度になったなら
 Ⅰ度からⅢ度と分類すると、すっきりわかったような気がします。けど、実際に、熱中症かなと思った時、あるいは、そんな人を見た時、きちんと分類できるかといえば、むずかしいように思います。一応の区分はありますが、連続的なものですし、どんどん悪くなっていく可能性もあります。特に、Ⅱ度からⅢ度になってしまうと、以後、一気に病状が進行してしまうこともあります。
こう考えると、素人判断せずに、ちょっと慎重かなと思う程度に行動したほうがいいように思います。

 体温を測って42℃とかになってたら、Ⅲ度の熱射病の可能性が非常に高い。ですから、いそいで体温を下げてやる必要があります。最も有効なのは、からだを氷水につけることです。が、これは専門家がいないとかえって危険な可能性もありますし、氷屋さんでも営んでない限り、そんなにたくさん氷なんかないでしょう。

 不十分とはいえ、気化熱を期待して、水をかけるとか氷水をひたしたタオルで拭くのもいいでしょう。それから、首筋、わきの下、脚の付け根、膝の裏を氷で冷やすというのも有効です。こういった場所は、比較的太い血管が体表面の近くを走っていますから、血管の中の血液の温度を下げて体温を下げてやることが効率的なのです。そうしながら救急車を待つしかありません。

「暑さに負けない」は捨てよう
 どこにも書いてありますが、まずは、熱中症にならないように予防することがいちばん大事です。炎天下にはできるだけ出歩かない。どうしても出ないとだめなときは、汗をかくからイヤとか思わずに、十分に水分補給をしましょう。

 高齢者に多いのですが、夜間に熱中症がおこることもよく知られています。ここまでお読みいただいたらわかりますように、高温をさける、汗で体温を下げる、ということが大事です。まずはエアコンや扇風機を使うこと。ただし、体に直接風をあてると体温が奪われすぎる可能性があるので、注意が必要です。

 電気代がもったいないなどと思わずに、エアコンはつけっぱなしにしてタオルケットや布団で調節したほうがいいようです。汗によって熱を奪ってほしいのですから、汗をよく吸うタオルケットがベターです。それから、脱水になってはどうしようもありませんので、寝る前はもちろん、夜中に目が覚めた時にも水分を十分にとることが大事です。

 暑さに負けずに頑張ろう、などという不遜な考えは決して抱かず、水分を十分にとって暑さをうっちゃりながら、元気に秋を迎えましょう。

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