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小林明子

小林明子/ライター

物心ついた時から家には動物がいて、ペットというより「家族」だった。 一緒に暮らすのは大変だけど、意外な発見の連続で離れられなくなる。

第10回 肉球で、癒したげてんねん。

 先日、仕事の合間にちょっと一息つこうと、BSテレビを観ていたら、かなり前に劇場公開された映画が始まった。

 母と死別した少女が、一頭のゴールデン・レトリバーと暮らし始めることで成長していく姿を描いた作品。実は、封切り前に予告編を観たことがあり、おぼろげながらストーリーを知っていた。で、泣ける事がわかっていたので、途中でチャンネルを変える、もしくはテレビのスイッチを切る予定だったのだが、まんまとテレビ局の術中にはまってしまい、つい最後まで観てしまった。
 問題のクライマックスシーン。「ソックス」と名付けられたゴールデン・レトリバーが静かに息を引き取る場面。訓練されたタレント犬の“演技”だとはわかっていても、やはり泣いてしまった。年を取るとどうも涙腺がゆるくなるようだ。

 それはさておき、中盤頃、主人公の恋人であるバイオリニストが事故に遭い、指が思い通りに動かなくなるシーンがある。演奏することしかできない青年は落ち込み、引きこもり状態になってしまうのだが、その傷ついた心を「ソックス」が癒すというストーリー展開だ。
 この行為はアニマルセラピーと呼ばれている。動物がそばにいてくれることで心理面の効果だけでなく、治癒を目的に、より積極的に医学的効果を上げていく、立派な治療法。

 その歴史は古く、「日本アニマルセラピー協会」のホームページ(※)によると、「古代ローマ時代から負傷兵のリハビリに、馬を用いたアニマルセラピーが行われていた」と記されている。馬以外にもイルカなどに“力”を貸してもらうことがあり、「犬を用いたアニマルセラピーは、20世紀半ばから本格的に」始まっていると同協会では紹介している。

 動物と触れ合うことで和む、ストレスが軽減されるといった効果も、アニマルセラピーと呼んで良いそうで、「ペットを飼っている人は飼っていない人より、年間20%前後病院に行く回数が減った」や「ドイツでは7,500億円、オーストリアでは3,000億円もの医療費が、ペットの影響によって削減」というデータも明記されていた。



 そこまで調べて、ハタと膝を打った。なるほど、だから私はシャンコがいないと仕事ができないのだと。正確に表現すると、原稿に詰まった時に、シャンコの手助けが必要なのだ。

 私が原稿や締め切りのプレッシャーから逃れるために、必要としているのは、モフモフの真っ白いお腹。そして肉球である。
 日ごろから肉球フェチを公言している私は、シャンコに限らず、そして猫に限らず、肉球であれば実は何でもウェルカム! 夢が叶うなら、ネコ科の猛獣、ライオンやトラ、ヒョウ、ネコ科じゃないけどホッキョクグマの肉球なんかを思う存分さわってみたいとも思っている。もちろん合法的に。安全に。

 それもさておき、肉球好きはけっこう多いようで、猫カフェなどでもマニア風の方達を良く見かけるが、その魅力の第一はなんと言っても感触。プニプニ、プニュプニュ、クニュクニュ感である。
 肉球には、着地した時の衝撃を和らげるクッション、地面から伝わる暑さ寒さを和らげる、獲物を取る時に足音がしないようになど、いくつもの役割がある。野良さんや外を出歩く猫の場合、肉球は使い込まれているので、スベスベ感やふっくら感が失われていることが多く、残念ながら私の好みではない。

 色もさまざまで、黒・ピンク・乳白・小豆などが代表的なところ。一色とは限らず、数色が混在していることもある。ちなみに私が最も愛するのはピンクの肉球だが、シャンコは4脚のうち、2脚が全面ピンク色。後の2脚はピンクをベースに黒や小豆色が入り混じっている。
 シャンコは門外不出のお嬢様なので、その肉球はもっちりスベスベ。美肉球である。原稿に詰まった時は、「肉球マッサージ」と称し、親指で肉球を、人差し指と中指で、甲部分の毛皮を撫でさせてもらう。シャンコは迷惑そうな顔をしながらも、よほど機嫌が悪い時以外は、私の好きにさせてくれる。(ちなみに、ここまで書く間にも2回ほどお世話になりました)

 肉球の主成分は脂肪。それをコラーゲンやヒアルロン酸で覆っているのだから、そりゃプルプルなわけである。汗腺があり、犬のように舌で体温調節できない猫は、耳と肉球で放熱を行う。7月から8月にかけての、狂ったように暑かった何日間か、確かにシャンコの肉球は燃えるように熱かった。その肉球を空に突き上げるような格好であお向けになり、顔に苦悶の表情を浮かべながら、風の通る廊下に寝ている姿をしばしば見かけたものだ。

 前述したが、世に肉球フェチは数多く、マニアの間で最近話題になっているのは、肉球のカタチで性格がわかる、手相ならぬ、肉球相?
 中心部にあたる掌球のカタチで性格が読み取れるらしく、オニギリ型・フジサン型・コメツブ型などがあるのだとか。わが家の猫は何型か? 気になる方はネット検索を。当たるも八卦、当たらぬも八卦だろうが、わが家の猫の肉球観察の良い機会になるかも。
 ちなみに、肉球が腫れてくるなどの病気も時にはあるので、フェチじゃない方も、たまには気にされた方が良いようだ。



 さて、肉球の第一の魅力は感触と書いたが、では第二の魅力は? それは匂いである。我が娘が幼かった頃(20年以上前?)に放映されていたアニメ主題歌の「子猫ちゃんの足のうらは お天道さまのにおいだね」という一節を聞いた時、なるほど!と思ったものだ。私自身は、暑い夏の日、夕立が降り始めた瞬間の、どこか埃っぽい匂いに似ていると感じていたが、それも人それぞれらしく、香ばしいとか、トウモロコシとか表現する人もいる。

 ともあれ、わが家では私だけでなく(まぁ、そんな行為を日に幾度も繰り返す母を見て育ったわけだから、当然かもしれないが)娘も息子も、シャンコの肉球の匂いが大好きだ。帰宅した瞬間、シャンコを捕まえ、肉球を鼻にこすり付けている。
 もっとも、猫の肉球からは汗だけでなくフェロモンも出ているそうで、であれば、うっとりしてしまうのも当たり前なのかも。

 トイレの砂を引っ掻き回してもいる猫の足の裏を自分の鼻につけるなんて…とドン引きされている方。上には上がいるもので、なんと、猫の肉球の香りはとっくに商品化されている。
 神戸に本社がある通販会社「フェリシモ」が開発したらしく、商品名は「あの猫(こ)とおそろい!? プニプニ肉球の香りハンドクリーム」。ハンドクリームとは…、さすがの私も驚いた。
 ホームページによると「猫好きさんの声から生まれた」と書かれている。甘い香りがするみたいだが、興味ある方は閲覧ください。
 http://www.felissimo.co.jp/merry/shopping/v1/cfm/products_detail001.cfm?gcd=248951

 私自身は、シャンコの肉球の匂いで満足しているので、ハンドクリームを購入する予定は今のところないが、こちらは買っても良いかなと思っているのが、肉球をケアするクリームだ。散歩が日課で、肉球を傷めることが多い犬用に開発。数社から様々な製品が発売されているが、近年は猫用も登場。愛猫の肉球をさらにプニプニにしたい、と思う飼い主さんに良く売れているらしい。
 シャンコの肉球をさらにプルプニュにして、もっともっと癒してもらおうという下心がゼロとは言わないが、厳冬期には、例え家猫でもアカギレしたように荒れることがある。

 いつもいつもお世話になっているシャンコの肉球。しっかりお手入れさせていただくから、これからも私たちを癒してね。

※参考
http://animal-t.or.jp/animal-assisted-therapy/aat01-what-is-animal-assisted-therapy/

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