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小林明子

小林明子/ライター

物心ついた時から家には動物がいて、ペットというより「家族」だった。 一緒に暮らすのは大変だけど、意外な発見の連続で離れられなくなる。

第6回 飼う方も飼われる方も、過酷な夏でした

 時の経つのは早いもので、愛猫シャンコにとって受難の季節・夏がまた巡って来た。足取り重く、ヨタヨタと歩いては、フローリングにドタンと体を投げ出し、しばらくするとあお向けになって、福々しい真っ白な腹部を惜しげもなく晒し、床が温まるとやおら立ち上がり、またヨタヨタと移動…、同じ行為を日がな繰り返す。昨年と相も変わらず、五体投地する毎日だ。

 シャンコはクーラーがあまり好きではなく、エアコンをつけて室温が下がり始めると、スーッと廊下に出て行く。ペット用の金属冷却プレートなども購入したのだが、そういう直接的な冷たさも苦手なのか、使用している形跡がない。人間様がたまに足裏をこすり付けている有様だ。

 ナチュラルな涼しさを求めるシャンコが好むのは、風通しの良い廊下や玄関。冷蔵庫の前も微かに冷気が漏れてくるのだろうか、よく寝ころんでいるのだが、開け閉めの度にどいてもらわねばならず、すごく邪魔。シャンコと格闘しながら台所を使うこともしばしばだ。

 今年は7月の終わりごろ、急に気温が上がり、どうにも暑すぎる日があった。その間シャンコはまるで雑巾のように廊下をゴロゴロ。「そりゃ毛皮着てるんだもんね、たまらんよね」と、氷をコップに入れて与えるとカンラカンラ、涼しげな音を立てて舐める舐める。でも、あっという間に溶けてしまい、また元の木阿弥で…。いっそのこと毛を刈ってやろうかとも思ったが、じっと刈られるわけもないし…と逡巡の日々を送るうち、やたら雨の日が多くなった。


 十数年前に建てたわが家は、普段は道路や橋を造っているゼネコンが、「これからは、わが社も住宅部門を強化するぞー」的な社長の鶴の一声で、ほぼ採算度外視で請け負ってくれた重量鉄骨である。躯体の立派さの割には、専門家が聞けば驚くほど廉価で施工してもらった(なにせ鶴の一声だから…)。だから構造は確かに頑丈で、地震が来たってビクともしないのであろうが、内装は全くのトホホ。

 計画の初期段階で、参考になればと、希望する間取りを方眼紙に私が描いて渡したのだが、仕上がった図面を見てビックリ! プロらしくいろいろなアイディアを加え、住み心地良くアレンジしてくれるかと思いきや、構造計算を施した程度で、ほぼ私が描いたものと変わらん有様!

 デザイナーを名乗る(本当は営業さん?)若いお兄ちゃんの担当者曰く「何せ、原価に近い価格で請け負ってるもんで…。これでもいろいろ苦労してるんですよ」。あれしたい、これしたいと出す要望は概ね「予算が。構造が。わが社では前例がなく…」で門前払い。そりゃ今まで、住宅をほとんどやってないんだから前例はなかろうよ。とはいえ、こっちも予算ギリギリで、確かにその価格で重量鉄骨の3階建てを施工してくれる会社はないだろうし…、なんだかんだで描いていたプランの多くを諦めた。

 結果、細かな間仕切りはせず、シンプルと言えば聞こえは良いが、早い話、箱のような家が出来上がったのである。ハウスメーカーや分譲マンションのおしゃれな造りがうらやましくないと言えば完全な嘘になるが、ま、住めば都と、大概のことは水に流してきたが、いくつか致命的な不都合があるのだ。

 前置きが長くなったが、その不都合ゆえ、私は雨が降るごとにきりきり舞いをせねばならず、その度忌々しい思いが蘇る。

 それはひさし。わが家の窓には庇がないのだ。1階は撮影用のスタジオ(編集注:小林さんの夫君は写真家)なので、窓なしなのだが、2階3階には各々十数か所、合計30カ所近い窓がある。そしてそのすべてに庇がない。という事は雨が容赦なく降り込むのである。

 窓を開けておけばそこそこ風通しも良いし、シャンコだけでなく私もあまりエアコンは好きではないので、極力開窓しておくのだが、ポツポツと音がし出した途端、ダッシュして30カ所の窓を閉めて回らねばならない。そのとき大事なのは風の向きを読むこと。東西南北、全方向に窓があるので、風を読み間違い、窓を締める順番を間違ったが最後、近年のゲリラ豪雨レベルでは瞬く間に床が水浸しになってしまう。

 まぁそんな労力を払っても、ザーと気持ちが良く降ってくれれば、少しは涼しくなるだろうし、走り回った甲斐もあろうというものだが、ポチポチで終わり、チェッと舌打ちしながら30カ所を全開した途端に、本格的にザーなんてことも多々。窓を閉め忘れて外出し、帰宅後、リビングに水たまりを発見。途方に暮れたなんてことも…。

 そんなわけで、ある日も窓を閉め切った部屋の中で、扇風機だけで我慢しながら、シャンコと雨が止むのを待っていた。そんな過酷な状況の中、シャンコはオアシスを見つけた。私の仕事用座椅子である。

 職業上、パソコンの前に長時間座らねばならない。その時間が少しでも快適になればと、フルリクライニング・低反発シート・メッシュ生地・座面回転という座椅子をネットで見つけ、即買いした。時には昼寝なんぞもし、もちろん真面目に仕事に勤しみ、快適快適と喜んでいたのは私だけではなかったようで、飲み物を取りに台所へ行き、戻るとシャンコがすまし顔で座っている。

「退いて?」と頼むと「にゃーん(いやー)」と返答。涼しい顔で眠りに入ろうとする。「仕事せんとアカンから、退いてよ」「にゃん(いや)」を繰り返し、埒が明かないから実力行使すると、メッシュ生地に爪を立てて抵抗をする。ようやく引きはがしたと思ったら、今度はベッドの上に広げておいた資料や書類がヒンヤリするのか、その上にどっかと居座る。資料を引き抜いて追い立てると、またもや座椅子に移動…。雨は止まない。蒸し風呂のごとき室内でいたちごっこは続いた。そこに帰宅した息子が一言。

「エアコンかければ良いだけやん。そしたらシャンコも部屋から出て行くよ?」「それはそうやけど、ここまで来たら意地というか、何というか…」歯切れとバツの悪さだけが残った。


 窓に関して、問題がもう一つ。エアコンをかけるほどでもなかった先夜のこと。扇風機をタイマーで回し、ベッドサイドにある、ルーフバルコニー(用語はおしゃれだが、わが家のある地域は建ぺい・容積率が厳しいので苦肉の策として造った、ただのコンクリート貼りのスペース)に面した窓を開け、スヤスヤと眠りについていた。

 と、コケコッコーならぬ、ギャオーンという雄たけびを耳元で聞いた気がして、飛び起きた。ようやく空が白み始めた頃。目覚ましが鳴るまでには小一時間近くあるというタイミングだった。

 私が開けて寝た窓の真下に位置するリビングの窓を、家族が閉め忘れていたらしく、そこに向かってシャンコが鳴き叫んでいたのだ。近所迷惑でもあるし、リビングに直行。あわてて窓を閉めたが、もう眠気はすっかりどこかへ。シャンコは「お母ちゃん(私のことをシャンコはきっとそう思っている。ハズ…)の側に行きたかってん! 寂しかってん~~! 一緒に寝させて~」と足にまとわりついてくる。夜中にごそごそされると熟睡できないので、普段はシャンコを2階のLDKに閉じ込め、3階の寝室には来られないようにしているのだが、その日は仕方なく共に私の部屋へ。当の本猫ほんにんはしてやったり。そのまま私のベッドの下に潜り込み、うつらうつらし始めた。

 作戦成功に味を占めたのか、3日に一度は雄鶏の如き時の声を「ぎゃお~~ん(一緒に寝て~~~)」と発するように。窓を閉めていても目が覚めるほどの大声で叫ぶものだから、看過することもできず…。飼い主の方がパブロフの犬よろしく条件反射するように仕込まれてしまい、眠い目をこすりながら階下に行く羽目になってしまった。

 空が明るくなると目覚めるようなので、シャンコのベッドがあるリビングに遮光カーテンでも吊るそうかと、迷っている。そのうち夜が明けるのも遅くなるだろうし、とも思いつつ…。

資料、踏んでるって? 知らんがな、寝かせてぇや。

この回転椅子、ホンマに居心地ええわぁ。

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