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小林明子

小林明子/ライター

物心ついた時から家には動物がいて、ペットというより「家族」だった。 一緒に暮らすのは大変だけど、意外な発見の連続で離れられなくなる。

第5回 アタシは、グルメなの。

 今回はちょっと前置きを。ライターという仕事をさせていただいて、30年あまり。食べ物に関する取材が半分以上を占めている関係で、我が家には様々な食料品が大量にある。雑誌の次回企画用の試食品、撮影済みで原稿を書く際の資料になる食品、新作、頂き物…。甘い辛い、硬い軟らかい、京都のモノ地方のモノ、あらゆる食品が冷蔵庫はもちろん、食品庫(買い置きしておかないと安心できない性分でもあるので、そのために家を建てた時にパントリーを広めに造った)に鎮座ましましている。
 それらをすべて私が食べるわけでは、当然ない。なぜなら、50軒ぐらいの店のお菓子についての原稿を一気に書いたりもするので、全身全霊頂いているとあっという間に病院送りになってしまうため、一口ずつ食べては原稿を書き、残りは家族の口に収まる事になる。
 これを30年繰り返してきたので、家族、特にバブル終末期に生まれた長女はこれらの食品で育ったようなもの。非常に口が肥えている。例えば3歳頃。丹後で漁師をしている友人が獲ってきてくれたアワビの炭火焼きを喜んでほお張り、トコブシは一口食べて「要らない」と言い放った。リトマス試験紙のような味覚の持ち主なのだ。
 ついでながら、バブルがはじけた後に生まれた長男は、頂き物や撮影が多少は減ったせいか、肉なら安い赤身、「高い肉(脂の多い)を食うと腹を壊す」とか。チョコレートは100円の板チョコが口に合うそうだが、もちろん長女は「ショコラティエの作ったものでなければ要らない」と…。ことほど左様に、極端な姉弟なのである。
 と、前置きが長くなったが、そんな一家ゆえ、当然と言うか必然というかシャンコもグルメ。彼女は毎日、フレンチを食べている。


 きっかけは、今から数年前に患った尿路結石。猫は尿道や腎臓系統がウィークポイントらしく、シャンコも罹患。結石が尿道を刺激していたのだろう、排尿する際、ギャオギャオ悲鳴を上げ始めた。もちろん、すぐに獣医へ。飲み薬と特殊な治療食が処方されたのだが、この治療食がなんとおフランス製。市販されているペットフードやおやつは一切禁止と言われてしまったのだ…。
 輸入ものの治療食は、ほんの500gで数千円とフランス料理並みに高価。シャンコは尿道が痛いかもしれんが、こっちもフトコロが痛いわいと弱っていると、同じく猫マニアの妹がインターネットで直輸入品が買えると教えてくれた。少しでも安く上げようと4㎏入りの袋を注文したところ開けてびっくり。日本製なら4キロ入りの場合、中味は500g単位とかで小分けにされているものなのだが、全くそんな配慮はナシ。さすがは大らかなお国柄。4キロ分のキャットフード…なかなかに壮観だったことを書き添えておこう。送料もバカにはならないし、買いだめが性分ゆえ、4キロを数袋一度に購入。人間用だけでなく、シャンコ用の食品庫ならぬストックスペースも工面しなければならなくなったのである。

 しかし、さすがにフレンチ! そのキャットフードは実に美味らしく、食いつきが全く違った。特に開封したては、香りが濃厚らしくガッツクことガッツクこと! あっという間にシャンコの体はふくよかに。驚いて獣医さんに相談すると「あ、あれカロリー高いから、ちゃんと計って食べさせて下さいね」、って先に言ってよ。
「おデブになると寿命に関わるからね」と計量しながら与えていたのだが、体重に見合った量では足りないのか、エサ容器の前で脚をきちんと揃えて座り、可憐な少女のような顔をしてねだるシャンコを見るとつい心がぐらつき…結構なマダム体型になってしまったのである。
 おフランス製には思わぬメリットも。毛並みが半端なく良くなったのだ。シャンコのお腹の福々たる毛並みを見た方は、みなさん「雑種とは思えない。顔を埋めたい」と仰るが、確かに神々しいまでに美しい。これは日々のフランス料理がなせる技だと、お腹を撫でさすっては実感している。


 シャンコは小さい頃から、人様の食べる物にも興味津々だった。魚には目もくれないが豚肉と鶏肉は大好きで、食卓の上のおかずも注意が必須。鍋の具材を並べておいた食卓の目を離したすきに、肉を一片加えて遁走。鶏そぼろを入れて焼いた玉子巻きなど、ラップで何重に包んでおいても牙と爪で引き裂き、テーブルから床に落としてほじくる始末。飼い主に似て、食い意地が張ってるったらないのである。
 お菓子類にも目がない甘党で、お気に入りは生クリームやカスタード、あんこ。私たちが食べていると膝に乗って脇を割って入り、隙あらばと虎視眈眈。時に甘えてみたり、あの手この手でゲットしようと足掻くのである。こんな時は、昔ながらの水屋箪笥が重宝だとチラッと思ったり…。
 尿路結石を患ってからは、甘いものは極力与えないようにしているが、乳製品は少しなら大丈夫と獣医に言われ、チーズなどは時々分けてやるが、何より好きなのがヨーグルト。うちでは朝食に必ずヨーグルトを食べるのだが、容器の色や形状でわかるらしく、白っぽい小さなパッケージを誰かが持っているのを見つけた途端、ダッシュ! 食べ終わるのを今か今かと待ち構える。特に息子が好んでいる、甘めのタイプがお気に入りで、カップに残ったわずかなヨーグルトを下げ渡してもらうのをひたすら待ち、洗ったかのようにキレイに舐めつくす。お下がりを待つのがもどかしくなるのか、時々、前脚を上げて「頼むし、はよ食べてぇや」と言わんばかりに弱々しい猫パンチを繰り出すことも。その様子見たさに、息子などはわざと焦らしたりするが、やがて本気でツメを出すようになるので「めんどくせ~、ちょっと待てや~」と良くボヤイテいる。

 その点、私が食べる、あまり甘くないタイプのヨーグルトはシャンコの好みではないらしく、邪魔をされたことはなかったのだが、最近風向きが変わった。娘と私がハマった、もちもち食感のヨーグルトにシャンコもハマったのだ。これは大型容器タイプで何度かに分けて食べるため、頻繁に下げ渡すわけには行かないが、数日に一度はシャンコのものになる。
 台所でカラになった容器を振りながらシャンコを呼ぶと、どんなに熟睡していても、リビングの隅にあるベッドを飛び出し、一目散に駆けてカウンターに飛び乗る。空の容器に頭を半分以上突っ込んで、一心不乱に舐める姿がそれはそれは愛らしく、ちょっとお高いそのヨーグルトを、私のため娘のため、そしてシャンコのためにいそいそと、スーパーでカゴに入れている。

はよ、食べてんかい(怒)

んぐ、んぐ、うみゃーなー。高いヨーグルトは!

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