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小林明子

小林明子/ライター

物心ついた時から家には動物がいて、ペットというより「家族」だった。 一緒に暮らすのは大変だけど、意外な発見の連続で離れられなくなる。

第23回 百猫百様、性格はまるで違う①

 昨夏に亡くなったシャンコは、文字通りの箱入り娘だった。手のひらに乗るぐらいの大きさで母親を亡くし、路頭に迷っているところを保護されたのだから、ほぼ外の世界を知らないと言って良いだろう。

 その証拠に、玄関の扉が開いていてもまるで結界があるかのように決して外に出ることはなかった。たまに日向ぼっこをさせようと、大好きなポジションである私の左肩に乗せて外へ出ても、肩越しにも緊張しているのが伝わって来た。通りをトラックが爆音立てて通りすぎようものなら、肩に爪痕を残して脱猫(兎)のごとく家の中に逃げ込んでしまうのが常だった。

 それに比べると、野育ちのアンドレ(オス)とモック(メス)は大胆だ。仕事部屋から脱走して懲りたアンドレは多少の躊躇があるが、クールなふりをして抜け目ないモックは機会あらばすり抜けようと猫(虎)視眈々と狙っている気がする。憧れの多頭飼いをして初めて、猫の性格ってこんなにも違うのかと思い知った。

 基本的にアンドレは、体は大きいがビビりだ。反対にモックは華奢で、前脚は折れそうに思えるほど細いが、性格は大らかで人懐っこい。我が家に来た当日に膝の上に乗りに来るほどだし、冷え込む朝は、私が目を覚ましたのを見計らって布団の中に潜り込んでくる。そして、アゴを突き出して私に撫でさせる。

 アンドレはどんなに寒かろうが、寝ている私には絶対に近づかない。畳んである布団の上に丸まってまどろんでいることはあってもだ。それでいて、モックがヒトを信じきっているかというと、そうでもない。生活の知恵として、ゴロにゃん的な態度をしておいた方が得、そう思っている狡猾さが見て取れる。私が撫で疲れると、「なんやもう終わりかいな」とでも言わんばかりにどこかに行ってしまう。
 アンドレはそういう意味では義理堅い。息子が撫でることを止めても寄り添い、一緒に熟睡することも。心を許した人間(この場合は息子)にはお腹も撫でさせる。


 性格の違いが端的に現れるのがフードタイムだ。留守をしていることも多いし、1日分のドライフードを置いておくと、アンドレが一気に食べてしまうので、多頭飼いを決めた時にオートフィーダーを2台購入した。1日4回まで、好きな時間に決まった分量のドライフードが10グラム単位で出るように設定ができる優れモノだ。
 我が家では2台とも6時間おきに設定。適正量は体重で変わるので、モックが55グラム、アンドレは65グラム。2台合わせて一日に120グラムが出るように、アトランダムに設定している。

 給餌時間の少し前になるとモーター音がするのだが、アンドレとモックはまさにパブロフの猫(犬)状態。ウィーンという音を聞くと何をしていても飛んでくるようになった。そのうちに、ここからはご馳走が出て来ると認識したのだろう。お腹がすくとウィーン音の前からオートフィーダー正面に鎮座。「まだ~」とでも言いたげな、抱きしめたくなるほど、愛くるしい表情で私を見上げるのだが、実食に至るまで動きがそれぞれ実に個性的なのだ。

 アンドレは30分ぐらい前からじっと座っている。1時間ぐらい前から座っている時もある。飽きたら、ちょっと一周回ってきてまた座りに来る。
 モックはお腹がすくと走り出す。「動いたらお腹減るやん」と、『火垂るの墓』の主人公・節子のものまねで諭してみるが、聞くわけもなく、縦横無尽に走り回っては、「ひゃー」と声にならない声で催促する。

 時間になりウィーンと音がしてフードが出て来ると、モックは一目算に駆け寄り、ずーっと静かに待っていたアンドレを押しのけるように、ガリガリと激しい音を立てて食べ始める。たまにこっちでガリガリ、あっちでもガリガリ、並べてある2台から気ままに食べ散らかすこともめずらしくない行儀の悪さを、アンドレはただ眺めているのだ。

「気を使わんと、レディーファーストなんかせんでも良いんやで?お腹空いてたんやろ? 30分、ずっとおりこうさんに待ってたんやから、早う食べたら良いやんか」と促してもアンドレはモックを眺めている。

 モックは胃が小さいのか、完食することは滅多にない。2割程度は残すことが多いのだが、当然その分もアンドレの胃に収まる。そして、アンドレは少しずつ太っていく。食事量のバランスを取るのが難しいのは、多頭飼いする者共通の悩みである。


 そもそもドライフードについても悩みが深く、シャンコは結石を患ったことがあったのでフランス産の治療食を与えていたが、アンドレとモックには「無添加、穀物不使用、白身魚80%」のイギリス産フードを与えてきた。

 なのに! モックが膀胱炎に罹ってしまったのだ。抗生物質を飲ませても一向に良くならず、5分おきにトイレに行くも尿が出ている様子がない。その事を獣医さんに報告すると、「ということは、突発性膀胱炎。つまり原因がわからないということです。ストレスはありそうですか?」。私が「隣家でリフォームが始まり、騒音の日々が続いています」と答えると「それかもしれませんね」とのこと。
 
 フードを変更し、継続的に治療することを薦められた。
それは、シャンコが食べていたフードと同じフランスの会社の新商品で、かなり高額。ネットでは購入できない獣医専門品なので、安く購入することもできないシロモノだ。

 私「先生、もう1匹もこのフードを食べさせないとダメですよね」
 先生「そうですね。多頭飼いの場合は同じ物を出さないと意味がないですからね」。

 膀胱炎ではないアンドレのために、しかもたくさん食べるのに。お金に羽が生えて飛んでいく様子を想像しながら「そうですか」と肩を落とす私を見て、先生は「もう1匹は男の子でしたよね? 男の子は女の子と違って尿道が長くて細いので、膀胱炎になりやすいし、しかも大変なんです。どんなに人慣れしていない子でも捕まえて麻酔打って治療しないと生死にかかわることもありますから。予防もかねて治療食にする方が良いと思いますよ」。
 そんなことになっては一大事。生涯飼育費、2匹で200万どころじゃないな~、少しでも割安になるよう、4キロ入りの大袋を購入しトボトボと帰った。

 フードを変えて数日。モックの頻尿は収まった。でも隣家のリフォーム工事もその少し前に終わったので、フードの効果なのか原因が無くなったからなのかはわからない。ただ、獣医さんの“脅し”が忘れられない私は、そのフランス産のフードを与え続けている。

 次回は、トイレタイムにも出る性格の違いについてです。

くっついて温まるアンドレ(左)とモック(右)
くっついて温まるアンドレ(左)とモック(右)

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