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小林明子

小林明子/ライター

物心ついた時から家には動物がいて、ペットというより「家族」だった。 一緒に暮らすのは大変だけど、意外な発見の連続で離れられなくなる。

第14回 理想は「いつも、いつまでも共に」だけど……

 最近あちこちで開催されている、猫の里親会のひとつを取材させてもらった。

 とある会館の一室。いくつものケージが次々と持ち込まれて来る。一匹しか入っていないケージもあれば、子猫が数匹入っているケージも。これらはすべて猫好きやボランティアの方たちが保護した猫で、ケージにはその際のいきさつや推定年齢。避妊・去勢手術の有無や病気について書かれている。なかには事故に遭ったのか、前脚の先がない猫などもいた。

 なかなかの盛況で、結構広い会場は保護した人と、里親になりたい希望者で熱気むんむん。高温に弱い子猫が大勢の人にのぞき込まれるストレスも相まったのか、過呼吸になったほどだった。

 この団体の譲渡条件の厳しさは群を抜いており、保護者と里親希望者同士が面接を行い、厳重な審査をされるのはもちろん、家庭環境も脱走防止用の柵が設置されているかなど様々な条件が求められる(せっかく保護したのに脱走しては元も子もない。そして、室内飼育に限定されている)。
 条件をクリアし、保護者の賛同を得て譲渡されることが決まっても、まずは1週間のトライアル期間を経てお互いの相性を確認。実際、家族として迎え入れてからも1年後に家庭訪問するという厳格さだ。

 住宅環境以外にも条件は多く、里親会にはなるべく家族全員で来るようにとの但し書きがある。一人暮らしの人には譲渡不可とする保護者も見かけられるが、何より、ほぼ全員の保護者が「65歳以上のみの家庭不可」と書いていた。

 保護者さんたちは、自らの時間とお金をつぎ込んで保護や避妊・去勢手術を行っておられる。個人で保護シェルターを持ち、数十頭をすでに保護・飼育している人も少なくない。

「先月は3匹が病気になり、医療費だけでも20万円かかった」
「自宅が猫だらけだから、家族は別の家で暮らしている」なんて話はザラ。 
 病気や高齢の猫は里親希望者が少ないので自分のシェルターで保護し、子猫や人懐っこい猫は里親会に出して、もらい手を探すのが一般的だそうだ。
 もっとも、この数か月に一度開催される里親会に出ること自体にも大変なハードルがあり、常にキャンセル待ちの状態だ。

 様々な犠牲を払った上でようやく里親先を見つけたのに、ずさんな飼育状況などでまた迷い猫になってしまいでもしたら、目も当てられない。それはわかるのだが、65歳以上は不可というのは、平均寿命が男性80.79歳、女性87.05歳の超高齢化社会日本において、どうなんだろうと考えてしまった。 

 日本ペットフード協会が発表した猫の平均寿命は15.75歳(2015年)。
 65歳で飼い始めた場合、ちょうど同じぐらいに逝けると言ったら不謹慎かもしれないが、少なくとも私はシャンコと同じ日に死んで、共にお棺に入れたら本望だが…などと思いを巡らしていた。

 ただ、そんなことを思う人はやはり少ないようで、「65歳以上で新たに動物と暮らそうと思う人は多くない」と保護者の方たちは言う。でもでも、動物好きなら…と納得いかない思いを抱えていたところ、まさにその光景を目の当たりにすることになった。

 始まりは一通のメール。このサイトの編集をして下さっているプロダクションに勤務するM嬢からだった。
「会社の近くに猫が数多く生息していて、そのうちの1匹を捕獲しました。犬派の私にもたやすく捕獲されてくれるぐらい人慣れしています。今は懇意にしている喫茶店のご夫婦が面倒を見て下さっていますが、どなたかもらい手はないでしょうか」という内容だった。

 可愛い写真も添えられていて、目のクリッとした美猫だった。件(くだん)の里親会に出そうにも相変わらずキャンセル待ちが続いていて、権利を得る頃には子猫は大きくなってしまうだろう。思いあぐねて何人かにそのメールを転送したところ、妹がすぐに食いついてきた。

「めっちゃ可愛いやん。あっちゃん(実家での私の愛称)飼えば?」
「うちのシャンコは繊細やし、もうおばあちゃんやから。若い猫なんか来たらまたストレスでホルモンバランス崩すわ」
「そうか。ほなら実家に飼わそう。それが良いわ」
 末っ子ならではの軽いノリで、実家に行く日を決めてしまった。

 少し話を戻す。大学1年だった34年前。私は虐待を受けているらしい子猫を保護し、実家に連れ帰った。猫嫌いの父は嫌がったが、娘時代に猫と暮らしていた母は大喜び。名前も「ちーちゃん」と勝手に命名。私が結婚して家を出た後、ちーちゃんは母の猫になり、18年。人間にすると90歳近くまで長生きをした。

 その後、ペットロスになっていた母を見かね、猫嫌いだったはずの父主導でフリーペーパーに掲載されていた保護猫をもらい受けた。その猫は昨年早死にしてしまったのだが、母は「看取れて良かった」と自分に言い聞かせるように繰り返していた。※詳しくはコラム№8をお読みください。

 そんな現状を、妹は「良くないと思うねん。お父さんとお母さんの間の会話も少ないし、二人とも何か元気がない。猫でもいたらまた張り合いが出ると思うし、会話も増えるやん。だから、お父さんは猫、探してきてって言うてたんよ。これはチャンスやわ」と。
 私は「そうかいな~~?」と思いつつも、半ば強引に実家に連行された。

 しばらくはお茶などを飲みつつ世間話。と、妹が不意を突いた。
「なぁなぁ、お母さん。猫、飼おう?」
 え? 飼わへん? ではなく、飼おう? 私は妹の不敵さに驚きつつも、彼女に促され、メールに添えられていた写真を母に見せた。
「あら~~、可愛いね~。どうしたん、この猫?」
 母の反応は思いのほか良かった。

「仕事先の人が保護しはって…」、一通り説明する。
「そうかぁ。目がクリクリしてるね」と写真に食いつく母に、妹すかさず
「せやろ? もらお!」たたみかける。
 一転して顔を曇らせた母は、「それはな~。もう、大変やし。エサとかトイレの砂とか買いに行くの…」。

 現在、父は83歳、母は79歳。車の運転もおぼつかないし、近所のホームセンターに消耗品を買いに行くのは大儀だろう。
「そんなん私が買ってくるし。宅配もあるし」、妹は一歩も引かない。
「けど…。今、飼ってもなぁ。こっちかてどうなるかわからんのに」と母。
「明日のことは私らかてわからんやん。けど、私かて、あっちゃんかて、猫が家にいるんやから、誰かがどうにかしたら残った者が面倒見たらいいだけやん」と妹が言うのを聞いて「上手い事言うなぁ」と感心しつつも、私は彼女のように強気には出られない。

 思わず、「末っ子の押しってすごいね~」とつぶやく。それを聞いた母も笑い出し、「まぁ、考えとくわ」とポツリ。
 妹は「いま、考えとくって言うたよね?はっきり断るわけではないよね」とまるで言質を取ったかのように顔を輝かせた。
 私と母は顔を見合わせ、「京都人の、“考えとく”は…」断ってるのと同じと続けようとしたが、妹の「少しは前向きになったということで、続きはまた今度」の一言に遮られ、飲み込んだ。このまま、曖昧にしといた方が良い気がしたのだ。

 その後、M嬢から例の子猫は無事もらい手が見つかったとの連絡を頂いた。ホッとした半面、妹のように押し売りした方が良かったのかもとも思えたが、時すでに遅しである。
 母に「この前の子猫、もらい手が見つかったんやて」と伝える。
「そう?良かったやん。やっぱり今からはなぁ、気が重いわ。私はこの子がいれば良いの」と、本物そっくりに作られた猫のぬいぐるみを膝の上に置いて撫でた。
 ドイツのメーカー「ケーセン社」が作るその猫のぬいぐるみには愛らしい表情があり、重さといい、大きさといい、と実にホンモノそっくりに作られている。もちろんお値段もそれなりだ。

 私たち姉妹だってアラフィフ。いつ何があるかはわからないが、少なくとも妹に何かあった場合は私が。私亡き後はうちの息子が、猫も含めて妹自身の面倒も看る約束になっている(これは妹が長男と契約している。その代償として、遺産は息子に渡してくれるそうだ)。
 けれども、そんな約束ができる人ばかりとは限らない。65歳以上は里親になれない、そんなルールを作らざるを得なかったのも猫のことを思えばこそ。隣人亡き後、猫や犬の面倒を見てくれる人はそうはいないだろう。世知辛い気もするが、それが現実だ。

 けれど、もしかしたら、そう遠くない将来、「あなた亡き後、家族同然に暮らしたペットの面倒、お引き受けします」保険なんてのもアリかも? 本コラムをお読みの業界の方、おられましたらぜひご検討ください!

母が愛する2匹の子たち

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