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小林明子

小林明子/ライター

物心ついた時から家には動物がいて、ペットというより「家族」だった。 一緒に暮らすのは大変だけど、意外な発見の連続で離れられなくなる。

第25回 ヒトの居ぬ間に…?

 北海道に広島、小倉、静岡、島根、宮城。ある1ヵ月に訪ねた出張先である。移動距離は1万キロ近くなったと記憶している。子どもたちが小さい間は数時間で帰って来られるエリア内での取材だけを受けていたが、下の子が中学生になったのを機に出張案件も積極的に入れるようになった。鉄道&旅好きの一面を買っていただける依頼主様が増えて、近年は月の半分近くを旅の空で過ごすこともあるぐらいだ。

 そんな母ゆえ、子どもたちは慣れたもの。冷蔵庫と食器棚、ダイニングテーブルに貼り付けられた指示書きを見ながらつつがなく過ごしてくれる。もちろんSNSも活用している。困りごとがあれば連絡が来るし、出張中でもメールぐらいなら返す時間も取れる。おかげさまで大学生の長男でも掃除に洗濯、簡単な料理ぐらいならこなしてくれるようになっている。

 問題は猫たちだ。もちろん、指示書きが読めるわけはなく「留守だからお利口にね」なんて言葉も通じるわけもない。先代猫のシャンコは赤ちゃんから育てたので、躾は成長と同時に、という感じでさほど大変とは思わなかったが、アンドレとモックは生後半年で我が家にやって来た。人間でいうならば、小学4年生がいきなり知らない家の子になったようなもの。戸惑うのは当たり前だろう。


 アンドレとモックが来て1ヵ月ぐらいたった頃だろうか。取材中の私に、帰宅した息子からメールが届いた。

 息子「仕事部屋がえらいことになってるで」
 私「え? どんなふうになってるん?」
 息子「写真撮って送ろうか? けど、仕事中やろ? 動揺するん違う(笑)?」
 私「そんなひどいことになってるん?」

 やり取りをする間に1枚の写真が届く。窓際に置いてあるテレビボードに飛び乗った際、テレビの横の置物やら写真立てやらに足を取られたのか、それらをなぎ倒したことに驚いて、隣の本棚に足をかけたら、本が雪崩打ってきた。さらに驚いてカーテンに飛びついたら布が破れた。そんな光景が目に浮かぶ1枚だった。私の仕事部屋にだけ地震が起きたんかい!という惨状が写し出されていた。

 私「想像の斜め上を行く酷さやな」
 息子「テレビの横にコップ置いといたやろ? 割れてるで」
 私「あー、急いで出かけたからなぁ」
 息子「その件に関してはアンドレとモックは悪くないで」
 私「わかってる。危ないし破片だけは始末しといてくれる?」
 息子「もうやった」
 私「アンドレとモックはケガしてない?」
 息子「大丈夫」

 次の取材先に向かう車中で憂う私を見ていた、同じく猫と暮らす編集者がスマホを示しながら「うちはこんなん置いてますよ」と言う。スマホの画面には彼女の部屋の様子が映し出されていた。

 それはペットモニターなる商品で、元々は防犯や赤ちゃんの様子を見守る目的で開発されたらしいが、近年のペットブームが追い風になり、様々なタイプが市場にはあふれている。スマホを通して部屋の様子を見るだけでなく、角度を変えたり、声掛けしたりすることもできて、画素数や性能によるらしいが、安いもので5~6千円、高くても2万円はしないそうだ。

 文明の利器を活用しない手はない!と、買う気満々で編集嬢のペットモニターをしばらく操作させてもらう。スマホ越しに声をかけたり、カメラの角度を動かしたり、ズームしたりするうちに、画面がぐらつき、天井しか映らなくなった。「ああ、カメラにパンチしたな。倒れると起こせないんで、もうどうしようもないんですよ」と言う。「え?それって余計に心配じゃない?」「そうなんですよね~」

 編集嬢によると元電源の入れ忘れも致命的で、彼女の持っているタイプではスマホからの電源操作ができないらしく、帰宅するまで何となく落ち着かないのだと言う。道中から注文しようとパンパンにふくらんでいた購入欲が、空気の抜けた風船のようにしぼんでいく。知らぬが仏、対処のしようがない光景が見えてもそれはかえって心苦しいだけ。1カ所に設置するだけでは効果も薄いと思い至り、購入を思いとどまった。

 フードは6時間ごとに自動で出るし、水も常にたっぷり飲めるようにしてあるので、半日程度の留守は心配なし。トイレ掃除だけは自動ではできないので(実は、自動でウンチだけを除去する外国製の猫用トイレがあるのだが、まだまだ高額)、息子の旅行行事と私の出張は重ならないように調整。必ずどちらかは帰宅するようにしている。


 アンドレとモックも、成長と共に置物などを避けて走り回るスキルを少しずつ身につけた。雨の日に部屋干ししていた息子のシャツをひきずりおろし、ヨダレと被毛まみれ、くしゃくしゃにすることもあった。息子の夕食用に置いてあったフライもののラップをうまくはがして盗み食いすることもあった。ティッシュやゴミ箱の中身を引っ張り出し、床を細切れの紙で埋め尽くしていたこともあった。

 でもそれは、洗濯物は手の届かないところに干す。食べ物は冷蔵庫かレンジの中に入れておく。ゴミ箱やティッシュは蓋つきにすれば良いこと。もっとも困るのは部屋の温度だ。

 冬は特に問題ない。猫用こたつやホットカーペットなど、温かく過ごさせる方策はいくらでもある。互いに丸まって寝ていればお腹はぬくぬくだ。問題は夏。特に昨年の夏は人間の命も脅かしかねない暑さだった。

 私の仕事部屋は東と南に窓がある最上階なので、夏場の室温は簡単に35度を超える。猫は犬に比べると暑さに強いが、それでも熱中症になることもある。特別な鍵をつけて窓を一部開けておく、扇風機を回しておく、体温を下げる金属プレートやマットレスを置くなど、あらゆる対策を講じたうえ、天気予報次第では28度設定にしてクーラーつけっぱなしで外出する日も去年はあった。

 今年の夏はどうなるだろうと、今から戦々恐々だが、先日急に気温が上がった日に観察したところ、台所や洗面所の床、風が通る、涼が取れる場所に移動できるようになっていたので少し安心している。

 人間がいる時は気持ちがハイになってよく暴れるようだが、誰もいないと、眠っているか大人しくじゃれ合っている時間が増えてきたのか、近頃は被害も少なめ。クッションが部屋の端まで飛んでいたり、本が数冊落下していたり、仕舞い忘れたキッチンペーパー1本分が細々にされていたこともあるが、許容範囲内。
 人間側も、仕舞う&隠すスキルを向上させている。互いに賢くなる、“折り合い”をつける。育て育ち合う、それこそが生き物と暮らす醍醐味だ。


息子の匂いがするシャツにまみれて恍惚の表情を浮かべるアンドレ
息子の匂いがするシャツにまみれて恍惚の表情を浮かべるアンドレ

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