住ムフムラボ住ムフムラボ

小林明子

小林明子/ライター

物心ついた時から家には動物がいて、ペットというより「家族」だった。 一緒に暮らすのは大変だけど、意外な発見の連続で離れられなくなる。

第29回 人生初のモテ期到来か!?

 人は見かけによらぬと言うが、猫も見かけによらないと最近思う。他でもない、わが家のアンドレのことである。このコラムでも書いてきた通り、動物愛護センターで保護されていたアンドレは人間に対する不信感の塊のような猫で、わが家に来てから3日近く飲まず食わずで家具の裏側に籠城した。アンドレにしてみれば「あんた誰やねん。俺は今まで誰にも尻尾を振らずに生きてきたんや。そう易々とは懐かないぞ」といったところ。少しでも近づこうものならシャーと牙を見せて威嚇する姿は凛々しくもあった。

 あれから2年半。アンドレは劇的に変わった。見た目は堂々たるオス猫に成長したが、在野の誇りはどこへやら。あんたは生まれながらの飼い猫かと呆れるほどの甘えん坊に大変身。今までの分を取り戻すかのように尻尾振りまくり、お腹出しまくり。玄関扉が開く音を聞きつけると、寝ていても飛び起きて走り寄って来るようになった。特に息子への愛は深く、彼がリビングのソファに座ると何をおいても駆けつける。うつ伏せに寝てゲームに興じる際は臀部に、腰掛けてスマホをいじる時は太ももの上に。母を追う赤子のようにくっついて離れない。かつての面影のかけらもないデレデレぶりに、息子も「えらい好かれたもんやわ」と苦笑するばかりだ。

 一方、同じく元保護猫のモックはわが家に来た日から私の膝上に乗ってきたが、基本的に構われ過ぎるのを嫌がる。実にクールなのだ。今も頻繁に膝に乗って来るが、あくまで挨拶感覚。気が済めばお気に入りの場所に帰っていく。たまに添い寝してくれることもあるが、お互い良い距離感で接することができている。が、アンドレはそうはいかない。同じ姿勢を取り続けることが苦になった息子が「そろそろ降りてくれないかな」と言い出すまで居座わり、安心しきった姿で爆睡するのだ。

 そもそも猫は自分勝手というか、モックのように過干渉を嫌がる傾向があると思うのだが、アンドレの甘えたぶりは犬に近いレベル。その「構ってちゃん」ぶりに驚きながらも、熱血アンドレ&息子の男チーム、冷静モック&私の女チームに分かれて過ごす日常が、息子の就職で一変した。

 基本的にステイホームが大好きな息子は多くの時間を家で過ごしてきた。アンドレにとってもそれは好都合で、好きなだけ息子に甘えられる環境だった。ところが就職後、平日は朝から夜まで不在。帰宅後も翌日に備えて早々に寝るのが日課になってしまい、リビングまったり過ごす時間が激減した。同時にアンドレの至福の時間も激減した。


 矛先は私に向いた。折からのコロナ騒ぎで私は厳格にステイホームしながら在宅ワークに勤しんでいた。人とは疎遠になった分、猫たちと密になる時間が増加。アンドレが「大好きなお兄ちゃんに甘えられる時間がめちゃくちゃ減ったから仕方ない、お母ちゃんで我慢するか」と考えたとしても不思議ではない。息子の身代わりになることを私に要求しはじめた。

 甘えたい気分になると、アンドレはなぜか玄関に向かって鳴き始める。それも結構大きな音量で。身体が大きい分、声量も豊かなので、はじめは何事かと思ったが、そうすることで注意を自分に向けているのだろう。仕方なく、私がソファに座ると全速力で走ってきて膝に飛び乗る。重くて熱い(猫の平熱は約38度)毛の塊を私は息子に替わって撫で続ける羽目になった。

 面白くないのは居場所を取られたモックだ。かくて、私の膝取り合戦の火蓋は切って落とされた。今まではソファに座った時だけだったアンドレが、食事中や仕事中でも私の膝に乗りに来るように。体重3キロ弱、華奢なモックはさほど苦にはならないが、4.5キロのアンドレは嵩が高い。膝の上に乗せながらのキーボード打ちはやりにくいことこの上ない。オンライン取材中も隙あらば乗りに来ようとする。どうにかやり過ごしたと思ったら次はモックが来るといった塩梅になってしまった。

 超甘えた坊主と化したアンドレの方が頻度は多く、モックは出遅れて“お茶を挽く”状態に。気が向けばいつでも乗れるはずだった私の膝に乗るアンドレを何とも恨めしそうな眼で見ているような気がして、早々にアンドレをあしらってモックのところに行くと、それがまたアンドレの気に障る。「オレ様のことをかわいがってくれないのはお前のせいだ」とばかりにモックの寝場所を横取りする、追い掛け回すといった、妬み行動をするようになったのだ。それを見た私が「アンドレ!」と一喝すると部屋の隅で反省した振りをするも、しばらくすると同じことを繰り返す。

 モックが膝上にいる時でもお構いなしに私の腰に頭突きして、自分を撫でろと主張してくる。困った表情を浮かべつつも「ほなら譲ったげるわ」とばかりに大人な対応をしてくれるモックが不憫でつい彼女をかわいがる。それがまたアンドレが嫉妬心をメラメラ燃やす悪循環に。人生初のモテ期到来!?とばかりに、人間相手にも経験したことのない三角関係ができてしまった。


 これもコロナ禍のひとつか。興味深いと思いながら1か月ほど過ぎた頃、モックの左前脚内側の被毛が一部ないことに気が付いた。正確には、湿疹のようなものができたため、自分で毛を舐め取ってしまったようだった。注意深く全身をチェックすると、右前脚、首、耳の横にも湿疹になりかけのブツブツがいくつもできていた。

 慌てていつものように(アンドレもモックもキャリーケースに入ってくれないので、病院に連れて行くことが難しい)患部の写真を撮って動物病院に走り、症状を説明する。

先生「免疫機能が落ちて、自己攻撃が起きているのかな。環境の変化とかありましたか?」
私「強いて言うなら、息子が就職して家にいる時間が減ったのと、逆に私が家にいる時間が増えました」
先生「大変言いにくいのですが、そのケース、実は増えているのですよ」

 獣医さんはとてもとても申し訳なさそうに、コロナ禍のストレスで免疫力が低下し、変調をきたす犬や猫が増えていること。特に猫は環境の変化に敏感で、愛する飼い主の在宅時間が増えたとはいえ、いつもの暮らしができないことでストレス過多になり、湿疹の一因になったことも考えられると宣った。「これも密の弊害か」と頭では理解できるものの、手間も愛も注いできただけにショックは計り知れず……。抗生物質とかゆみ止めの薬と皮膚ケアに特化したフードの試供品をいただき、トボトボと帰途についた。

 それにしても、猫でさえストレスが疾患につながるのであれば、ステイホームを強いられている子どもたちは如何ばかりか。今後、注意して見守る必要があるし、大人も例外ではないだろう。

 1週間ほどが経ち、モックは快方に向かいつつあるが、やんちゃ&甘えた坊主アンドレの嫉妬心、攻撃は相変わらず。モックは精神的に大人だし、負けん気の強いところもあるので、意外にアンドレの攻撃をうまく交わしているのだろうが、見ていない時はまだしも目の前で猫パンチを繰り出すアンドレを見ると、つい華奢なモックに味方してしまう。そこでハタと気が付いた。私は子どものけんかに大人がしゃしゃり出る状態を作ってしまったのかもしれないと。それが互いのパワーバランスを崩す結果になったのかもしれないと。

 子育て同様、平等な猫育ては難しく、正解も存在しない。2人の実子育てをほぼ終えた今、ひしひしと感じている。

アンドレ(左)とモック(右)。仲良くお昼寝している時もあるんだけどね
アンドレ(左)とモック(右)。仲良くお昼寝している時もあるんだけどね

コラムニストから選ぶ

PAGETOPへ