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江 弘毅

江 弘毅/編集者

住まいと街の健全な「交通」が行われてこそ人がハッピーになる、 という街的生活者の住生活充実コラム。今日も「ごきげんなネタ」てんこ盛りで。

第7回 家で食べること。

 家で食べることのもうひとつの側面。
「何で、家で食べるとおいしいのか」について。

 前回は外=街と家で食べることの結節点について、買って帰って、多少でも料理して食べて「おいしいもの」、それはどういうものかについて書いた。

 では今回は、冷やごはんを湯通しして、お茶漬け海苔のパッケージ袋を破ってふりかけて、熱いお茶をかけて食べることのおいしさ、みたいなことについて考えてみたい。
 永谷園ほかのお茶漬け海苔もよく食べるが、袋入り即席ラーメンの方がよく食べる。外で鮨やフランス料理のフルコースを食べて帰ってきて、どうも物足りないと食べることだってしょっちゅうだ。チキンラーメンもマルちゃん正麺もエースコックのワンタンメンもサッポロ一番みそラーメンもよく食べる。
 が、カップ入りラーメンやうどんは食べない。どうもおいしくないと思うからだ。

 袋入りラーメンの「おいしいな」と思うところは、やはり鍋を使って「調理」するからだ。といっても、炒めた豚や野菜を具にしてそれをラーメンに入れて食べる、というのはマルちゃん正麺とサッポロ一番の味噌ラーメンぐらいだ。
 ほとんど片手鍋で湯を沸かして麺を入れてほぐして、それで火を止めてスープを…、という具合だ。
 チキンラーメンに至っては鍋も使わない。専用のノベルティの蓋付き丼を持っていて、ラーメンを入れて凹みに生卵をのせて、熱湯をかけて蓋をして3分。出来たのものに刻みネギと胡椒をかけて食べている。それでも確実にカップ入りのチキンラーメンよりおいしい(と思う)。

  家でやっておいしいのは、即席ラーメンにしろお茶づけ海苔にしろ「自分でつくるから」である。相方がつくってくれたのを前にして「オレの方が断然うまいけど」などと言ったら、鬼のように怒られるかも知らないが、そういうものかもしれない。

 買ってきたパック入りの蛸や魚介だってそうだ。
 同じパック入りの食材にせよ、大きな脚が2本だけ入っているタコや「調理済み」とシールが貼られているまるっぽの魚のほうが、綺麗にスライスされてすでに刺身になっているそれやプロが塩焼きしたデパ地下のあれよりおいしいな、と思う。

 ただタコを切るだけ、キスをレンジで焼くだけ、イカのゲソに粉をつけて揚げるだけなのに、惣菜として買って帰るものよりもずっとおいしい。確かに「一手間調理」ではない何かがあるのだ。
 たぶん、自分で切ったり火を入れたりする、という何かが、「おいしい口」にするんだと思う。

 人間の味覚は変わる。
 同じキリンラガーでも、コンビニで買って家で飲むのと、仕事帰りの行きつけの居酒屋で飲むのと、キャンプに行って川で冷やしたのとでは味が違う。中身が同じキリンラガーなのに、味やうまさが違うのをわれわれは経験的に知っている。

 自分で何かをつくって食べるというのは、鮮魚店で活の鯛を一尾買ってきて、鱗を引いて出刃庖丁で三枚に下ろして切り身にしたものを刺身庖丁で引いて…、というのでなくても十分おいしい。
 
 即席ラーメンをつくるときの鍋や、それを食べるときのお気に入りの鉢、タコの刺身やキスの塩焼きを盛る皿…というのもあるが、ちょっとした時間——湯を沸かしたり、切ったりすることの時間——が人間の味覚を変容させる。

 スーパーやコンビニは、気に入った商品をカゴに入れてレジに持って行き、バーコードをピッとやり、そこでおカネと引き替えに受け取る、という無時間モデルだが、家で食べることは、例えそれが3分間の加熱であっても有時間モデルだ。
 そしてそれは、電子レンジで温めるとか、湯沸かしポットでカップに湯を注ぐ、とかそういうものではなく、生身の身体が何かをして「食材」を「食べものにする」ということかもしれない。
 
 大阪の人間は、串カツやお好み焼き屋、はたまた割烹が好きだ。
 同じ串カツでも目の前で揚げてくれるのを見てそれをいただくのと、キッチンで調理されたものを出してくれるのでは、味が違うと思っているのだと考えているがどうだろうか。
 それらはすべて対面調理販売であり、自分のために誰かがなにかをつくってくれるシーンを見ながら、すでに「食べる前に勝負あり」という「魔法」のようなものかも知れない。

 即席ラーメンにしても、家で自分でつくるからおいしい、というのは、自分の好みを一番知っている料理人=もう一人の自分が、自分のためにつくってくれるからおいしい、ということだとすれば、庖丁を使いこなしたりフライパンを細かく振ったり返したりせずに、味付けが下手だ…ということを露呈しない調理に限られるのは、多分正解なのだと思う。

 この次は男の料理教室にでも行って、魚の捌き方刺身の引き方などなどを習って帰って、市場で鯛やヒラメやイカを買って、家で刺身三昧、ということを考えたりするのであるが、多分キッチンを魚の鱗や血や内臓でむちゃくちゃにしてしまって、奥さんに「もう二度とするな」なんて怒られそうだから、やっぱり単に「切る」とか「焼く」とかだけに留めておこう。今のところは。

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