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江 弘毅

江 弘毅/編集者

住まいと街の健全な「交通」が行われてこそ人がハッピーになる、 という街的生活者の住生活充実コラム。今日も「ごきげんなネタ」てんこ盛りで。

第19回 街場の本屋さん

 現役の編集者であるわたしがこういうことを言うのもどうかと思うのだが、書店に行くことがぐっと減った。

 家や職場で欲しい本が出ていたらソッコーAmazonで検索してポチる。すると明日に届く。お目当ての本に行き着くと、横に「¥25より62中古品の出品」とクリックするところがあり、古本が安く買えたりもする(ちなみに06年に出版したわたしの講談社新書『「街的」ということーーお好み焼き屋は街の学校だ』は1円だったりする(泣))。

「さんざん本屋さんにお世話になっているのに、Amazonで買っててどうすんねん」と思ったりして極力、本は書店で買うことにしているが、原稿を書いていたりしていて調べものがあったりすると、ネット検索してそれでAmazonに行き着いて購入してしまう。
 書店で在庫確認して買いに行くよりも、図書館へ行って調べるよりも、断然早いのだ。わたしの場合Kindleは端末に馴染めなくてまだ使っていないが、そうなれば瞬時に本が入手出来てしまう。
 コミックの世界はもっと進んでいて、一昨年に電子コミック販売額が紙(単行本)を抜いた。

 わたしですらこういう具合だが、1996年をピークに長く続く出版不況のなか書店はほんとうにキツい商売になっている。 
 数字を見てみると2018年の全国の書店数は1万2026店。20年前のなんと2分の1になっている。2019年に入って、大阪でもミナミのスタンダード・ブックストア心斎橋が閉店、老舗の天牛書店が破産し多くの店舗が閉店した。

 編集や原稿を書くことを仕事にしているということは、活字を読むのが仕事だというのとほぼ同じと思えるのだが、「外」で活字を読むことは、締切があったりなど仕事上のミッションや、大ファンの作家さんの新刊に熱中しているときなど、よほどの切迫がないと書籍や雑誌、新聞を広げることはなくなってしまった。
 われながらちょっと恥ずかしくも、情けなくも思う。


 カバンの中から代わりに出てくるのはスマホやiPadである。で、Twitterのタイムラインとかを見たり、時にはイヤホンを出してYouTube経由で音楽を聴いたりもする。

「外」とはすなわち「仕事場」でも「家」でもない「第3の空間」であり、電車内、喫茶店、病院や銀行の待合室、公園……といった場所だ。一人で「外」に行くや、おもむろにTwitterのリツイートやメールの着信が気になってモバイルを取り出す。ある種の接続不安状態に苛まれるのだ。

 電車に乗るとほとんどの人がスマホを出しているし、セルフ系カフェのカウンターではスマホだけでなくノートパソコンを持ち込んで開いている人も多い。吉牛で牛丼を食べながら、といった人も見かける。最強はダイレクトメッセージに返信するためだけに、コンビニに入って水だけ買ってイートイン・カウンターに腰掛ける(わたしの場合)。
コンビニのイートインカウンターとモバイルツールは相性がいい
コンビニのイートインカウンターとモバイルツールは相性がいい

 良い悪いということではなくて、今まで文庫や新聞雑誌を読んだりする都市空間が、ネットをやるための空間になってしまったのだ。だから喫茶店や理容室、医院の待合室の週刊誌やスポーツ新聞も不要になった。


 そこで「家で読む」ということを考える。
 それはパソコンを横に押しやって読みたくなる空間をつくることでもあるが、TwitterやFacebookより断然、「読みたくなる本」をさがすということになる。
「読みたくなる本」というのは、もちろん読んで面白い、役に立つ本といったことだが、そういう文脈ではなく、「著者のことを知る」ことで、一気に「読みたくなる度」は高まる。
 一番良いのは著者のトークイベントに行って、話を聞いてくることだ。「こんな人がこういうことを書いているんだ」という親近感が生まれると、同様にぐっと本に近づく。

 このところ書店、それも紀伊國屋書店とかジュンク堂とかの都心やターミナルにあるメガ書店だけではなく、大阪、京都、神戸でも街なかの小さな書店での刊行記念トークショーや座談会などのイベントが注目を集めてきている。
 
 大阪市中央区の谷町6丁目にある[隆祥館書店]は、2011年から「作家と読者の集い」と題したトークイベントを今なおずっと続けていて、この4月28日(日)の「ダン・ブラウン作品の魅力と翻訳の楽しさ/翻訳者・越前敏弥さん」で228回を迎える。
 シンクロナイズドスイミング元日本代表で、この「町の本屋さん」をご両親から引き継いだご主人の二村知子さんは、出版界、書店界のスターだが、地元の大阪・谷町の人気者だ。
長堀通の北側。昼は子どもの本を買いに来る母親や料理本を求めるシェフ、夜は通りにクルマを駐めてLEONを買う男性客など、客層が実に広い
長堀通の北側。昼は子どもの本を買いに来る母親や料理本を求めるシェフ、夜は通りにクルマを駐めてLEONを買う男性客など、客層が実に広い

「オシャレな書店」として知られる京都一乗寺の[恵文社]は、ギャラリーや「コテージ」と呼ばれる併設空間があって、イベントや作品展示などが頻繁に行われている。
文化系女子の「京都に行ったら必ず寄りたい」書店の一つ。雑貨も売りだ
文化系女子の「京都に行ったら必ず寄りたい」書店の一つ。雑貨も売りだ

 神戸市灘区にある[ワールドエンズ・ガーデン]は看板猫のぶんちゃんがいることで有名な古本屋(新刊も置いている)だが、まるで大きな家のリビングを書店にしたような空間で、トークイベントが好評だ。
Twitterで見てこの店のトークイベントにやって来る客も少なくない
Twitterで見てこの店のトークイベントにやって来る客も少なくない

 というのも、神戸近辺在住の著作者の鼎談など、近所の人が集まって近所の著作者が書いた本について聞く、という地域密着の空気感がいい。
鼎談「オリンピックに抗う身体」には本コラムの執筆者・平尾剛さん(中央)、神戸大学大学院教授の小笠原博毅さん(右)、ノンフィクションライターの松本創さんの3人が来場者と一緒に自由闊達なトークを繰り広げた
鼎談「オリンピックに抗う身体」には本コラムの執筆者・平尾剛さん(中央)、神戸大学大学院教授の小笠原博毅さん(右)、ノンフィクションライターの松本創さんの3人が来場者と一緒に自由闊達なトークを繰り広げた

 こうなるとトークを聞くためにあらかじめ「家」で読んでおく、あるいは聞いて本を買って「家」に持って帰って読むということになって、読書をめぐる「家」と「外」のつながりがリンクしてくる。

 本を手に取ってパラパラめくって選べる街のリアル書店がどんどん姿を消しているが、ファストフードとチェーン店系カフェ、コンビニばかりの街で、ネット時代の「家」と「外」の健全な関係性は「本」と「書店」なのかもしれない。

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